『遊園地』 作:野菜

【CHARACTER】

プーカ  

グレムリン


  

【STORY】

プーカ:グレムリン。「機械が壊れた?ああ、グリムリンのせいだね!」とか。

プーカ:「何?コードが噛みちぎられてる?グレムリンめ」とか。

プーカ:グレムリンの歴史ってけっこう新しいみたい。一家に一匹グレムリン!......は、冗談としても。人間の生活の中に、そして機械の傍にいる。アメをお供えされたり、入れたりするためにビール瓶が置かれたり。

プーカ:ボクは、「人間はグレムリンに感謝を忘れた」なんて言い回しが好きだな。

プーカ:農業だ山だと泥くさいボクとは正反対だ。

プーカ:少なくとも、プーカの中の、ちょっと変わったボクとは。

グレムリン:プーカ。その名を聞くと、パックって妖精を思い出す。『真夏の夜の夢』っていう演劇が流行ってな。こっそり人間どもに混じって、観劇したもんだ。それに出てくんだよ、妖精パック。

グレムリン:そのパックってやつの、あー、現代風に言いやあ、元ネタっつーの?

グレムリン:私が見た舞台は、どれも、事故だらけの悲惨なものになっちまったが、な。

グレムリン:あれ、結局最後まで見れてねえんだよなあ。

グレムリン:プーカの方もイタズラ好きで、崇拝されてたり、怖い妖怪扱いだったり。

グレムリン:なあおまえさんよ。人間ってやつぁ、勝手だよな?

プーカ:10月31日。23:37。

グレムリン:空には満点の星。

グレムリン:人は死んだら星になる。飛び立つ前、そう言って笑っていたあいつはウソツキだ。

グレムリン:私と飛行機に乗った彼のくれた小さな溶けたアメ玉。それによく似たアメの袋に、小さな手をつっこんだ。

プーカ:はーはっはっは!!やっと見つけた!もとい、追いついた!

グレムリン:(瓶ビールを飲む)これは珍しい。

プーカ:つれないなあ。

グレムリン:アイツみたいな事言うなよ。......まあ、ここなら珍しくもないのか。

プーカ:そうとも!ボク、プーカは山や丘にうろちょろしがちだからね!せっかくの住処をこんなキラキラうざったい遊園地にされた恨みとかぜんっっぜん持ってないよ!

グレムリン:それは恨みを持っている奴のセリフだな。

プーカ:寝床がこんなことになって数年。もやもやは増しておりますです!

グレムリン:まあ、今日はハロウィンだしな。妖精が鉢合わせることもあるだろう。

プーカ:そういう気分ニャー。あれ、いつもの風船ガムは?

グレムリン:あるけど?まあビールにゃ合わねえな。......あの猫も来てるのか?

プーカ:きっとね?ところで『明日』は何の日か知っているかな!!!?

グレムリン:......明日?

プーカ:そうとも!明日11月1日はプーカの日どすえ!

グレムリン:知らないな。っていうかもうツッコまない。何かするのか。

プーカ:ふふ、まあ時代とか国とかにもよるんだけども。

グレムリン:そういうもんだろ、イベントって。

グレムリン:(瓶ビールを飲む)あなたは何を?

プーカ:大人しくする。

グレムリン:大人しくする??

プーカ:そう、明日は大人しくする。プーカの日だからね?でもハロウィンとなれば話は別だあ!!

グレムリン:プーカってこんなにやかましい妖精だったか......?

プーカ:トリックオアトリート!

グレムリン:結局やんのね。はいはい。

プーカ:オア「triturate(とりちゅれーと)」

グレムリン:粉砕する......?これを選んだら私はどんな目に遭うんだ......?

プーカ:オア「treacly(とりーくりー)」

グレムリン:めっちゃ甘いとか、感傷的なという意味...?思い出語りでもするの???

プーカ:オア「trillion(とりりおん)」

グレムリン:単位......メジャーなのは1兆だが国によっては百万兆......金か?金の話か?

プーカ:オア「trinitarian(とりにたりあん)」

グレムリン:三位一体のことだな。嘘だろ誰かまだ一人この期に及んで登場してないのか?

プーカ:オア「Triskaidekaphobia(トリスカイ・デカフォビア)」

グレムリン:なっっがい。言えない。覚えられない。なんか今は関係ない気はする!

グレムリン:(瓶ビールを飲む)ほら、トリート。(アメを投げる)

プーカ:はいキャッチ。ふふ、残念。

グレムリン:プーカ、私を探してたのか?

プーカ:いや、初めは好奇心だったんだけどさ。......グレムリン、西門からここに来た?

グレムリン:......なんのことだか。

プーカ:ここまでの道中の乗り物とか電球とか全部壊れてんだけど。真っ暗なんだけど。

グレムリン:勝手にこわれた。

プーカ:勝手に、ねえ?

グレムリン:なんだよ。

プーカ:飛行機落としのグレムリンって、君?

グレムリン:別にいいでしょ?死を踏み越えて、人類は発展した。

プーカ:あっれー?人間大好き派?

グレムリン:少なくともここ十数年、この国の飛行機は落ちてないだろ。

プーカ:飛行機、嫌いになったの?

グレムリン:あのおバカさんたちの頭がマシになっただけだ。手先もか?(笑う)

グレムリン:(瓶ビールを飲み干す)......で?

プーカ:ここの遊園地さあ、もうすぐ閉鎖なんだって。

グレムリン:ふーん?

プーカ:ずっと、妖精が珍しく住んでた山を破壊して作ったこのおもちゃとかさ、キラキラをさ。ぶっ壊してやりたかったんだ。

グレムリン:物騒だな。

プーカ:分相応にさ?やりすぎるのもアレだし、かといってこれだけ大きいと姿を現したりイタズラしにくいし......。

グレムリン:うだうだしてたら、勝手に潰れたと。

プーカ:そ。でさ、電球やキラキラのひとつやふたつ、壊してやろうと意気込んで来たら、これだよ。

グレムリン:私は機械のこと好きなんだけどな。

プーカ:愛の重さで軒並み大破してるんだけど。

グレムリン:悪かったって。

プーカ:ふっ、山の妖精と機械の妖精がハロウィンに出会ったんだよ?酔っ払いさんよ。

グレムリン:私もクルウのは嫌いじゃない。.........何企んでんだ?

プーカ:君をさ、最後にメリーゴーランドに乗せてあげるよ。

グレムリン:壊すだけだ。

プーカ:このメリーゴーランドはすごいよ?なんと!園内1周!全部のアトラクションや機械を眺めながら最後の光を楽しみましょー!!

グレムリン:は?

プーカ:と、いうわけで。ボクの背中にのって♡

グレムリン:あなたの背中に乗ったが最後、みたいな伝説なかったか?

プーカ:お、詳しいねリンリン。

グレムリン:リンリン言うな。振り落としたり頭突きしたりしないか?

プーカ:しないしない。

グレムリン:私の姿を魔法でとんでもないものに変えたり?

プーカ:しないってば!君はトリートを選んだんだから。

グレムリン:あの辺ジョークじゃなかったのかよ。

プーカ:さあっ!

グレムリン:うおっ、少しはスピード落とせよな!

プーカ:大嫌いな人間の作った、素敵なキラキラ。昼も夜も笑顔で賑わっていて。かつてボクに向けられた信仰や恐怖とはちがう、.........キラキラしたなにかが、いつもそこにあった。

プーカ:ボクはその人間たちの中には混ざれなくて。だって妖精なんて現れたら、きっと、そのキラキラは。

プーカ:ここを、キラキラを。

プーカ:壊したい。壊せない。

プーカ:でも今日が最後の日で。

プーカ:そして今日は、まだ大人しくしない、ハロウィンだもん。

プーカ:あと。

プーカ:しがみつくグレムリンの瞳が、キラキラと大きく輝いていた。

グレムリン:キラキラした安直な飾りは、電源を破壊され、コードがちぎれ、ねじが勝手にゆるみ、その姿を崩していく。

グレムリン:あの夜。あいつと墜落していく夜空の闇と、燃え盛る機体のように。目もくらむまばゆい光と、飲み込んでいく闇が、そこにあった。

グレムリン:おい、プーカ。勝手に私を人間へのトリックに巻き込んだな?

プーカ:だって君、イタズラしたそうだったよ?ずーっとガマンしてる顔してた!

グレムリン:私は大人だ!トリックオアトリートなんて遊びはしない!

プーカ:昔はしてたの?

グレムリン:(ぎゅっとアメの袋をつかむ)............1度だって、そんなことしてない。

プーカ:ウソだあ!きっとボクとおんなじようなことしてそう!

グレムリン:Triskaidekaphobia(トリスカイデカフォビア)とか誰にも伝わんねえぞ。

プーカ:13日の金曜日とか人気だしいける!

グレムリン:ちょっと古いな。

プーカ:なんでゲームに詳しいのさ、ゲームは機械でしょ!?

グレムリン:私は大人だからなー(適当)

プーカ:ぬいぐるみにしか見えないよーだっ!

グレムリン:いつしか眠らなくなった人間。

グレムリン:都市は不夜城。魔法も不思議も解き明かされて、すべては彼らの管轄の中。

プーカ:それでもボクらは、ここにいて。

グレムリン:久しぶり、キラキラ。

プーカ:さようなら、キラキラ。

グレムリン:夜空から街を見てみたいな、なんて。大きなトリックを心に望んだ。



【~完~】