『試験コード:ライゼ・ヴェークのクソッたれな魔法』 作:よぉげるとサマー
Aguhont Story Record 外伝
『試験コード:ライゼ・ヴェークのクソッたれな魔法』
作:よぉげるとサマー
110分
ライゼ:マリシ国所属の軍人。傭兵団を結成し、アグホント大陸各地を巡っている。体の大半を機械化した後天的アンドロイド。モヒカンヘアーと、素敵な改造パーツで、オシャレ街道を爆進している。
ヴェーク:ライゼの傭兵団に所属している精鋭。魔力の扱いに長けており、ライゼの補佐を務める。長髪に整った顔立ちで、言葉遣いも割と丁寧だが、他人をからかうのが好きな鬼畜な奴である。
ギャギャギャリアン・ヴェルナヴァンド:タングリスニ国の軍人で科学者。自称天才とうるさい。たまにガキっぽい。(訂正してください訂正してください訂正してください)
ガミジン:管理番号『e4』識別名称『ガミジン』二つ名『エレクトロマンシー』『青き馬』一人称『ガミたん』笑い声『ギハッ』人型義体特徴 -『大きいフード付きの洋服を着ている。身長は低い。少しボリュームのあるボサボサのボブ』特記事項 - 『生体部品の記憶が残存しており、人形を家族と見立て、不安定な精神プログラムを制御している。電磁場の操作に適正が高く、【電磁傀儡】(エレクトロマンス)という兵装を装備している』
バルバトス:管理番号『e8』識別名称『バルバトス』二つ名『狩人』『和解の使者』一人称『オレさん』笑い声『ギァギァギァ』人型義体特徴 -『長身で、折れ曲がるような猫背。髪はアシンメトリーで右が短く、左が長い。ジト目』特記事項 - 『面倒くさがりだが、自身の管理領域については真面目に務める。生体部品の記憶に関連してなのか、魔法を扱える。是非解析して、今後の研究に活かしたい』
シミューラ:《ガミジン役が兼役推奨》ガミジンの機械人形(オートマタ)。
クラム:《バルバトス役が兼役推奨》ガミジンの機械人形(オートマタ)。
シミュラクラム:《バルバトス役が兼役推奨》ガミジンの機械人形(オートマタ)シミューラとクラムの2体のパーツを合体させて形成される。大きさは成人くらい。どのようにガミジンが扱っているかは不明だが、大切なことに変わりは無いようだ。
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*【Mist】読み:ミスト 意味:クソ、くだらないこと
ヴェル:ライゼ君。魔法って、なんだと思いますぅ?
ライゼ:あん? 魔法は、魔法だろ。
ヴェル:えぇっとぉ……君は、会話する気が無いんですかぁ?
ライゼ:そんなことねぇぜ。博士が当たり前のこと聞いてくっからだろー? 俺の答えは、単純(シンプル)なんだよ。
ヴェル:単純(シンプル)というかぁ、単細胞(バカ)なだけではぁ?
ライゼ:なんだとぉ、博士に言われたくねぇなっ。
ヴェル:なんだとぉ、どう意味ですかそれぇ!
ライゼ:皆から言われてんじゃねえか、研究バカって。
ヴェル:それは別に悪口じゃないっ。まぁ、褒めてもいませんけどぉ。
ライゼ:あー? バカって言われてんだから、変わんねぇだろ。
ヴェル:全然違いますよぉ……いや、もうこの話はやめましょう。元の話に戻って戻ってぇ。
ライゼ:魔法は魔法だろ。
ヴェル:わぁ、戻るの早ーい……そういうとこはライゼ君の良いところであり、意味分かんないところでもありますねぇ。
ライゼ:おっ、なんだよー、褒めんなよあんまー、へへっ。
ヴェル:さて、とぉ……魔法は、魔法。というのは、端折り(はしょり)過ぎですねぇ、ライゼ君。もう少しぃ、分かりやすいように掘り下げて下さい。
ライゼ:えぇっとぉ……魔法ってのは、なんかこう……不思議な力でぇ……えー……つまり、科学じゃない、イレギュラーなぁ……武力だ。
ヴェル:……良いじゃないですかぁ、ライゼ君。科学では無い、イレギュラーな武力。マリシ国の科学的権威者達ですらぁ、大した解析が出来ていない領域……それがぁ、魔法。
ライゼ:なんだよ、博士にも分かんねぇってことじゃねぇか。そんなん俺に聞いても、分かるわけねぇだろ、バカかよ。
ヴェル:バカじゃないですぅ、天才ですぅ。
ライゼ:天才かよ。
ヴェル:そだよっ!(※えっへん!)
ライゼ:あー、それで? このディスカッションに何の意味が?
ヴェル:いや、ディスカッションって言うほど議論になって無いでしょうにぃ……。まあ、意味なんて特に無いですけどぉ……魔法という物の認識を、聞いてみたかったんですよぉ。
ライゼ:ほーん。んで、聞いてどうすんだよ?
ヴェル:別にどぉもしませんけどぉ。
ライゼ:どうもしないんかい。
ヴェル:ただぁ……これだけはぁ、共通認識として持っておきたいんですけどぉ。
ライゼ:ん?
ヴェル:ふふ……魔法なんて、碌(ろく)なもんじゃあないんですよ。
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*【Reise】読み:ライゼ 意味:旅、旅程
ヴェーク:おい、ライゼ。
ライゼ:……んぁ。
ヴェーク:起きろ、そろそろ着く。
ライゼ:んー……着いてから起こせよ……。
ヴェーク:しゃっきりしろ。着いたらすぐ動かないといけないだろうが。
ライゼ:寝起きだって問題ねぇよ……ふがぁあぁ(※あくび)……たくっ、もうちっとサボれただろうによぉ。
ヴェーク:お前は運転してないんだから良いだろ。
ライゼ:良くねぇー……ん? いまどこら辺だ?
ヴェーク:……リーベルとバルナ、ニ国のちょうど間くらいだ。
ライゼ:んじゃあ、もうほんと近けぇな。
ヴェーク:だから、そう言ってるだろ。
ライゼ:「そう」は言ってねぇーだろ。
ヴェーク:あのなぁ……一字一句、合致して無いとダメなのか?
ライゼ:あぁ、ダメだね。
ヴェーク:……そりゃあ悪かったな。
ライゼ:てか、なんで移動が魔導(まどう)トラックなんだよ。魔力無いとこ走れねーじゃねぇか。
ヴェーク:仕方ないだろ。博士が手配して来たのがこれなんだから。
ライゼ:どこが仕方ねーんだよ。ゴネろよ。
ヴェーク:ゴネるかっ。時間の無駄だ。
ライゼ:俺ならゴネたね。そんで、無限軌道(むげんきどう)かつ水陸両用の空まで飛べる、なんかスゲー乗り物にして貰えただろうなーっ! あーあ! ざーんねんだー!
0:※無限軌道[キャタピラ。不整地での移動を可能とする物。]
ヴェーク:うるせぇな……どういう自信なんだそれは。
ライゼ:まっ、仲良いからな。
ヴェーク:それだけで、そこまでしてくれるような奴じゃないだろ、博士は。
ライゼ:なんだよ、言ってみねぇとわかんねぇだろ。
ヴェーク:……お前が好きなゴテゴテしたヤツ、博士は嫌いだろうに。
ライゼ:あー、確かになー……まあ、でも俺は好きだからな。
ヴェーク:だからなんなんだ。好きだからやってくれるだろうって話なら、お前は博士の孫かなんかなのか?
ライゼ:は? 違ぇぞ、バカか?
ヴェーク:知ってるよバカ!
ライゼ:まぁ、今回は隠密重視ってことなんだろうな。
ヴェーク:話を戻すのが急すぎる……。確かに、魔導トラックは静かだし、熱源感知もされにくい。それにコンパクトだ。
ライゼ:傭兵団のヤツら連れて来たかったのになぁー。
ヴェーク:無駄に大勢で来てもしょうがないだろう。今回は様子見だからな。
ライゼ:まぁな……けど、なんで俺とお前なんだよ。
ヴェーク:……さぁな。考えるのも無駄なくらいの、「考え」があるんだろうさ。
ライゼ:だろうなぁ……お、あそこだな。
ヴェーク:あぁ……あの岬の「底」だ。
ライゼ:へっ、面倒くせぇとこに巣作りしやがって……。
ヴェーク:上手いこと視界に入らないようにカモフラージュされている。ご丁寧に、認識阻害(にんしきそがい)もかかってるな。
ライゼ:へぇ、認識阻害なのに分かんのか?
ヴェーク:このメーターを見ろ。
ライゼ:あー?
ヴェーク:これがゼロじゃ無い場合、認識阻害に対する中和機構が働いてるんだよ。
ライゼ:へぇー。こんなん用意して、こっちこそご丁寧じゃねぇかよ。
ヴェーク:まぁな。
ライゼ:そんじゃ、行くか……ん?
ヴェーク:どうした?
ライゼ:いや、その認識阻害は、ここから出ても中和されてんのか?
ヴェーク:知らん。
ライゼ:はぁー? なんで肝心なとこでテキトーなんだよ、お前は。
ヴェーク:テキトーじゃない、そこまで説明されていないだけだっ。降りてみれば分かるだろう。なんでたまにお前は慎重なんだ。
ライゼ:俺は、いつだって慎重だっ。特に、作戦の時はな。
ヴェーク:はいはい、分かったから降りろ。慎重にな。
ライゼ:うるせぇっ。
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*【Abwehr】読み:アブヴェーア 意味:防衛、迎撃
ガミジン:……ねぇ、なんか。
バルバトス:あ″ぁー……? な″ぁーんだよ?
ガミジン:たぶん、侵入者が、いるかも。
バルバトス:侵入者ぁ? あ″ぁー……ここを見つけるなんて、相当な物好きじゃねぇかよぉ……。
ガミジン:……防衛機能は全て正常だから、偶然発見された訳じゃ無さそう。
バルバトス:はぁ……面倒だぁ……。
ガミジン:見に行くの?
バルバトス:いぃや……お前の人形に任せるよぉ。オレさんは……システムの稼働状況を確認してくる。
ガミジン:……それって、サボりじゃ。
バルバトス:あ″ぁー?
ガミジン:はぁ……分かったよ。ガミたんは、防衛機能を使って侵入者を排除するよ。
バルバトス:任せた……生体部品を手に入れられりゃ……実験も捗(はかど)るしなぁ。
ガミジン:うん、なるべく綺麗に壊すように…‥頑張るよ。
バルバトス:ギァギァギァ(※笑い声)……期待しとくぜぇ。
ガミジン:……はぁ、面倒ごとは全部ガミたんに押し付けるんだから。……監視システムへアクセス。感知センサーのログを参照。……2人か……本当に、何しに来たんだろ。まぁ……やることは変わらないけど……拠点防衛(きょてん ぼうえい)システム、起動(アクティベート)。
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*【Sichtweise】読み:ジヒトヴァイゼ 意味:見方、考え方
ヴェル:おはようございますぅ。お加減いかがですかぁ?
ヴェーク:……んん。
ヴェル:おやぁ……私のことぉ、分かりますかぁ?
ヴェーク:あぁ……分かるよ、博士。……寝起きで、ボーッとしてるだけだ。
ヴェル:んふふ、それは良かったぁ。ぐっすりでしたからねぇ……何もかも忘れるくらい寝込んでるんじゃないかってぇ、心配だったんですよぉ。
ヴェーク:なんだそりゃ……んぅー(※背伸び)……はぁ……。よし、起きた。
ヴェル:改めて、おはようございますぅ。あぁ、一応、ご自分のお名前は、覚えてらっしゃるぅ?
ヴェーク:なんなんだ怖いな……寝てる間に、変な実験でもしてないだろうな?
ヴェル:そんなことしてませんよぉ。とりあえず、ほらぁ、お名前は?
ヴェーク:はぁ……「ヴェーク」だ。これで良いか?
ヴェル:えぇ、ばっちり覚えてますねぇ。正常で何よりです。
ヴェーク:……なんか気持ち悪いな。
ヴェル:なんですかぁ、部下の体調を慮(おもんばか)るのは、当然のことでしょお。これから特殊な作戦に参加してもらうのだから、殊更(ことさら)ですよぉ。
ヴェーク:あぁ……わざわざ博士が仮眠室まで起こしに来る程、重要な作戦でもある、ってことかな?
ヴェル:えぇ、それはもう。ただぁ……国の予算を動かせる物では無いのでぇ……完全に私が個人的に、ライゼ君達へ依頼する物となっちゃいましたけどねぇ……はぁ、お財布が寂しいですよぉ、とほほぉ。
ヴェーク:そりゃ残念だったな……。
ヴェル:あのぅ……ライゼ君とは、仲良かったですよねぇ?
ヴェーク:ん? まぁ……良好ではあるかな。
ヴェル:……ちょっとぉ、あまり予算がかからないような作戦内容にして下さいねぇ……と、伝えてくれません?
ヴェーク:自分で言えば良いだろう……。
ヴェル:いやぁ、やっぱり現場の声の方が、説得力あるじゃあないですかぁ。
ヴェーク:いや、伝言だとその意味合いは通じないだろ……まぁ、伝えておくよ。
ヴェル:ありがとうございますぅ。本っ当にっ、お金無いんでぇ! 頼みますよぉ……。
ヴェーク:分かった分かった……任せておけ。
ヴェル:わー、頼もしー! ふふ……流石は、ライゼ君の右腕ですねぇ……。
ヴェーク:なんだそれは……ただのサポート役だよ、私は。
ヴェル:いえいえ……ご謙遜(けんそん)を。数々の実績を積んで来たじゃないですかぁ、ライゼ君と一緒にぃ……そうでしょう?
ヴェーク:……まぁ、そう、か?
ヴェル:そうですよぉ、それがあるからこそ、危険な偵察を任せるんじゃないですかぁ。
ヴェーク:ご評価頂きありがたいが……わざわざ傭兵団のトップに任せなくても、と思うがな。
ヴェル:まぁ、そこはねぇ。不測の事態にも対処できるように、信用できる人に頼みたくてぇ。
ヴェーク:……何か悪いことを考えていないか?
ヴェル:そんなこと無いですよぉ……ふふ、知ってます?
ヴェーク:何を?
ヴェル:良いとか悪いとかぁ、なんてのは、見え方の違いでしか無いんですよ?
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*【Kampf】読み:カンプ 意味:戦闘、闘争
ライゼ:お前さぁ、持ち運び式の中和機(ちゅうわき)あんなら言えよ。
ヴェーク:トラックに付いてるヤツの話を聞いたのは、お前だろう?
ライゼ:違えよっ、持ってんならさっさと使えって言ってんだよ! 無駄にウロウロさせやがって!
ヴェーク:いやー、トラックに乗り降りしながら、必死に入り口探してるモヒカン野郎の姿。楽しませて貰ったよ。
ライゼ:半分機械のくせに一回で覚えてらんないのかって、無駄に煽りやがって! 半分じゃねぇよ! だいたい、だっ!
ヴェーク:引っ掛かってるの、そこなのか……まあ、この中和機が無くても見つけられて良かったじゃないか。努力が実ったな。
ライゼ:見つけた瞬間、お疲れーって、グラサンつけたお前がニヤつきながら、こっち来た時は、潰してやろうかと思ったぜぇ……!
ヴェーク:あはは、怒るな怒るな。この中和機がサングラス型なのが悪い。
ライゼ:ぜってぇ、博士がこのやり取り先読みして作りやがったんだ……クソがっ!
ヴェーク:おいおい、あんまり大声出すなよ。これは偵察なんだぞ。
ライゼ:うるせぇなっ、分かってて煽ってやがる癖にっ!
ヴェーク:あっはっはーっ。
ライゼ:クソッ、そういうとこ博士そっくりだな、お前。さすがは……ぁー?
ヴェーク:なんだその言い草、親子じゃないんだぞ、私と博士は。あと、一緒にされるの、ちゃんと嫌だからな。
ライゼ:……んん?
ヴェーク:ん? どうしたライゼ?
ライゼ:あ、いや……なんか……。
ヴェーク:……あー、さては、この螺旋階段(らせん かいだん)に疲れてきたんだな? 機械パーツで補助してるのに情けない奴だなー。
ライゼ:んな訳ねぇだろっ! あと1週間ぶっ続けでも行けるわ!
ヴェーク:可能だとしても、1週間は嫌だな……。
ライゼ:そういや……どこまで続いてんだよ、これ。んー……暗視スコープでもまだ底が見えねぇ……。
ヴェーク:きちんとゴーグル掛けるってことは、目玉は機械じゃないんだな。
ライゼ:まだなぁ……頭まわりは、ちっと慎重にいかねぇと……ん?
ヴェーク:……何か来るな。
ライゼ:見つかったってことか……お前のせいだぞ。
ヴェーク:チームで動いてるんだから、連帯責任だろう?
ライゼ:どう考えても、とばっちりだろうがぁ!
ヴェーク:まあ、どっちだって良いけど。来るぞ。
ライゼ:分かってんだよ、んなこたぁ! 兵装展かぁ……!
シミューラ:だれー?
クラム:だれだー?
ライゼ:……あ?
ヴェーク:……おー、まずは話し合いから、ってことかな?
ライゼ:んな訳ねぇだろっ。
シミューラ:ここは入っちゃダメー。
クラム:そうだぞー、てか普通入んねーだろー。
ヴェーク:うん、すまない。たまたま見つけてしまってね。探検したくなったんだ。
ライゼ:ガキかよ。
ヴェーク:はは、話を合わせろ、バカ。
シミューラ:そーなんだー。でもここは入っちゃダメー。
クラム:そーだー。かえれよー。
ヴェーク:まあ、そうしようかな。けど、質問させてくれ。ここはなんなんだい? そして君たちは、どうしてここにいるんだ?
シミューラ:知らなくてー……。
クラム:いーことだー……ふっ!
ライゼ:っ、避けろっ!
ヴェーク:おぉっと。なぁんだ……やっぱり暴力か。
ライゼ:言ってる場合かっ! うぉわっ、いまので階段崩れてんじゃねぇかっ!
シミューラ:ちぇー、避けられたー。
クラム:ちぃー、大鉈(おおなた)を避けるとはー。
ヴェーク:うわぁ……どこからそんなデカいの出したんだよ……。
ライゼ:バーカ、腕が丸ごと変形してんだ。コイツら、機械人形(オートマタ)だ。
ヴェーク:てことは、お仲間かい?
ライゼ:違ぇよ。俺はアンドロイドだっ。
ヴェーク:何が違うんだ?
ライゼ:うるせぇっ、色々だっ!
ヴェーク:色々かー。
クラム:うるせーなー。はやく、かえれー。
シミューラ:つちにー、かえれー。ふんっ!
ヴェーク:うおっと。あー、かえれって、そういう意味だったのか……。
ライゼ:だから、暢気(のんき)にしてんじゃねぇっ! コイツら、叩き壊すぞっ!
ヴェーク:子供サイズなのに容赦無ぇなぁ……ま、了解、ボス。
シミューラ:ん、熱源感知。迎撃機構(げいげき きこう)、起動。
クラム:む、魔力検知。防御機構、起動。
ライゼ:兵装展開っ。
ヴェーク:魔装展開。
ライゼ:『暴力装置』(ゲヴァルト・アパラート)!
ヴェーク:『正当防衛』(ノート・ヴェーア)
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*【Vertretung】読み:フェアトレートゥング 意味:代理、代行
ガミジン:はぁ……ちゃんと強めだな、コイツら。2体だと、どうしても出力が制限されるから……破損が無い内に、ガミたんも合流すべきかな……。
バルバトス:お″ぉーい、ガァミジン。
ガミジン:ウギァッ!? びび、びっく、びっくりした……戻って来たの?
バルバトス:集中してるとこ悪りぃけどよぉ……培養槽(バイオリアクター)の老廃物除去(ろうはいぶつ じょきょ)システムが、まぁたイカれてんだわぁー……。ちゃちゃっと見てくんねぇかぁ?
ガミジン:えぇ、また……? というか、ガミたんは、絶賛戦闘中なんだけど……。
バルバトス:あ″ぁー? まぁーだ、やってんのかよぉ……ギァギァギァ、サボってんじゃねぇーのかぁー?
ガミジン:んなわけないでしょ……ガミたんが真面目にやって、これなんだよ。
バルバトス:へぇー……自動操作(オート)にしちゃマズイのかぁ?
ガミジン:んー……壊されるかもしれないじゃん。
バルバトス:はあ″ぁ……んじゃあ、どうすんだよぉ?
ガミジン:……はぁ、じゃあ少し変わってくれる?
バルバトス:あ″ぁー?
ガミジン:リモートくらいバルバトスにもできるでしょ。あぁ、自信ないなら、避けまくってくれるだけでも良いよ?
バルバトス:煽ってんじゃねぇよぉ、ギァギァギァ……良いぜぇ、代わってやるよぉ。もちろん……ぶっ壊しちまってもぉ……良(い)んだよなぁ?
ガミジン:ギハッ(※笑い声)。良いよ……できるならね。
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*【Bedienung】読み:ベディーヌング 意味:操作、取り扱い
ライゼ:へへっ、多腕(たわん)兵装展開っ! 行くぜぇっ! 『六剣熱刺』(ゼクス シュヴェルト・ヒッツェ クリンゲ)!
ヴェーク:技名ながっ。
シミューラ:うわー、細くて蜘蛛みたいでキモいー。わっ。とっ。
クラム:ほっ。はっ。とぉっ。
ライゼ:へっ、上手く躱(かわ)しやがるじゃねぇかっ!
クラム:反撃のー、ブレードチャクラーム。
シミューラ:てやーっ。
ライゼ:そんな皿みてぇなもん、叩き割ってやら……!
ヴェーク:(※被せて)やめとけ。
ライゼ:うおっ! てめ、引っ張んなっ!
ヴェーク:避けろ。
ライゼ:ぐっ、回避っ!
シミューラ:ん……あの腕、いくつか切り落としたかったのにー。
クラム:む……案外、冷静じゃーん。
ヴェーク:解析したら、強度的に触ると怪我しそうだったからな。
クラム:賢い奴に救われたかー。
シミューラ:どっちも脳筋なら良かったのにー。
ヴェーク:良かったな脳筋、私がデータキャラで。
ライゼ:余計なお世話だっ! やる気になりゃ、叩き割れんのに、勝手に日和(ひよ)りやがって……よぉっ!
ヴェーク:っと……じゃあ、これも避けるなよ。
ライゼ:うるせぇっ!
シミューラ:戻りのチャクラムも避けられたー……。
クラム:後ろにカメラでもあるのかー?
ライゼ:んなもん、まだ実装してねぇよ。単に、感知機構が優秀なだけだっ、ブレード収束っ……!
クラム:む……6つの焼刃(やいば)がー。
シミューラ:くっついたー?
ライゼ:『出力』(アウスガング)……『大剣刺突』(グロース シュヴェルト・シュトース)!
シミューラ:んっ、長いーっ。
クラム:むっ、でかいーっ。
ライゼ:ヒャッハァー! 焼き斬れろぉっ!
クラム:むー、でもー。
シミューラ:避けられなくはー、無いっ。
ライゼ:ちぃっ、避けんなっ! 大人しく……斬られやがれっ!
シミューラ:緊急回避システム。
クラム:起動(アクティベート)。
ライゼ:ふっ!
クラム:よっ。
ライゼ:でりゃっ!
シミューラ:ほっ。
ライゼ:しゃらっ!
クラム:はっ。
ライゼ:くらっ!
シミューラ:やっ。
ライゼ:ぜぁっ!
クラム:ほいっ。
ライゼ:くっ、そがぁ……ぜぇ……ちょこまか、しやがって……うらっ!
クラム:大振りすぎー。
ライゼ:くっそっ!
シミューラ:そんなんじゃー。
ライゼ:らぁっ!
シミューラ:いっしょー。
ライゼ:はぁっ!
クラム:当たらねーよー。
ヴェーク:いやいや、そろそろ当たっときなよ。
クラム:むっ。
シミューラ:んっ。
ヴェーク:『知らず、獲物は糸に絡(から)まる――』……『蜘蛛の巣』(シュピネンネツ)
シミューラ:んっ、うごけー……。
クラム:むっ、ないー……。
ライゼ:ナイスっ! おっりゃあ!
クラム:るぁーっ。
シミューラ:どぁーっ。
ライゼ:ぶっ、たっ、ぎっ、たぁっ! はっはぁ! いっちょ上がりだなっ!
ヴェーク:……おい、ライゼ。ご満悦なところ悪いが、もっと周りを見て戦えっ。階段が崩れすぎて、もう、ほぼ足場が無いぞ。どうやって戻るつもりなんだ……。
ライゼ:あー? んなの……あー、お前も考えろよっ!
ヴェーク:逆ギレするなっ。
ライゼ:逆ギレじゃねぇよ! 正しくキレてんだよ!
ヴェーク:なに言ってんだ、バカ。
ライゼ:うるせぇな! バカ呼ばわりした方が、バカなんですぅ! バーカッ!
ヴェーク:ガキかよ……はぁ。
ライゼ:あぁー!? ……あ?
ヴェーク:っ! 『繭玉』(ココン・クーゲル)!
ライゼ:どわっ!
シミューラ:ちぃ……防ぎやがったかぁ。
ヴェーク:おい、モヒカン。倒せてないじゃねぇか……!
ライゼ:うるせぇ、特徴なしっ!
ヴェーク:あるわっ!
ライゼ:斬った手応えは、あった。なんで五体満足で動いてやがんだ、てめぇ。
シミューラ:あ″ぁー? そりゃあ、不思議だなぁ……ちゃあんと、斬ったんだもんなぁ?
ヴェーク:本当に斬ったのか?
ライゼ:斬ったわボケ! ったく……突然出て来て、随分と煽りやがるじゃねぇか。あぁ?
シミューラ:へぇー……中身が変わったって分かんのかよぉ。大してバカじゃなさそうだぁ……ギァギァギァ。
ヴェーク:いや、こいつ超バカだぞ。
ライゼ:黙れ、超アホ。
ヴェーク:お前が黙れ。
ライゼ:お前がっ、黙れ。
ヴェーク:うー……!
ライゼ:がぁー……!
シミューラ:『アナタが銃声の様に笑う、狩りは楽しいな――』
ヴェーク:なっ、魔力っ!?
ライゼ:チィッ! 防御機構っ、展開!
シミューラ:『笑声』(ブームスティック)
※ショットガンの銃声。
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*【Langeweile】読み:ラングヴァイレ 意味:飽き、退屈
ヴェーク:くっそ……四方八方(しほう はっぽう)からバカスカ撃ちやがって! ぐぁ……魔法障壁(まほうしょうへき)の削れが早いっ!
ライゼ:バカみてぇにブッ放しやがる……てか、弾しか見えねえ散弾銃(さんだんじゅう)って、魔法なのかぁ!?
ヴェーク:知らねぇよっ! 魔弾(まだん)とかって呼びゃあ、それっぽいんじゃないかっ?
ライゼ:なっ、魔弾っ!? カッケェ!
ヴェーク:それなっ!
シミューラ:あ″ぁー? ギァギァギァ……随分と余裕じゃねぇかよぉ……ほぉら、集中しねぇと、弾が抜けちまうぞぉ?
ライゼ:クソッ、近接攻撃して来なくなりやがった……舐めやがってっ!
ヴェーク:いや、魔法を行使しながらマルチタスクは、かなり難しいんだ。ぐっ……魔弾を使うので手一杯なんだよ、アイツはぁ……っ、こっちも防ぐので手一杯だけどなっ!
ライゼ:あー、なるほど……へっ、お互いそろそろキツいか?
ヴェーク:あぁ、魔力が無駄に減るし……何より、飽きたっ!
ライゼ:同感っ! そんじゃ行くぜぇっ! 防御は任せたっ!
ヴェーク:『どんな痛みも、ここへは届かない――』
シミューラ:詠唱かぁ……何する気だぁ?
ライゼ:お前を……!
ヴェーク:『繭玉』(ココン・クーゲル)!
ライゼ:ブッ、潰すっ!
シミューラ:熱源感知……チッ。
ライゼ:『加粒子砲』(タイヒェン・カノーネ)!
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*【Hektik】読み:ヘクティク 意味:慌ただしさ、焦燥感
ガミジン:磁場形成機構(じば けいせい きこう)、起動(アクティベート)。……はぁ、バルバトスも、これできるようになって欲しい。ケチって施設の機能に加えなかったから、こういう時に面倒……うわっ、フィルターに超ゴミついてる。洗浄も手動なのは、本当にどうにかしないと……。
0:※轟音と振動。
ガミジン:ウギァッ!? な、なな、なん、何の音!? すす、すごい音と振動ががが……う、通信接続……ねぇ、バルバトス、いまの何?
バルバトス:あ″ぁー……侵入者が加粒子砲(かりゅうし ほう)、ぶっ放してきやがってよぉ……ギァギァギァ。
ガミジン:えぇ……あ、え、シミューラとクラムは!?
バルバトス:まぁ……なんとか避けたぜぇ。
ガミジン:あぁ、それなら、良かったけど。
バルバトス:ただぁ、もう動かせなそうだなぁ……。
ガミジン:えっ、どうして?
バルバトス:加粒子砲の余波でよぉ……電波障害が発生してるみてぇだ。
ガミジン:あー、そういう……じゃあ、直接行かないといけないじゃん。
バルバトス:お前、培養槽(バイオリアクター)の掃除は終わったのかぁ……?
ガミジン:まだだけど……そんなの後回しだよっ! ガミたんの人形が……壊されちゃう!
バルバトス:お″ぉい、オレさんが行ってやるからよぉ、お前はぁ……。
ガミジン:ガミたんが行くのっ! 通信切断っ!
バルバトス:あ″ぁ、おぃ……。
ガミジン:くそっ、あぁ、急がなきゃ……壊れちゃう……壊されちゃう! ガミたんの、ガミたんの、ガミたんのガミたんのガミたんのガミたんのっ、人形っ!
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*【Simulakrum】読み:ズィムラクルム 意味:模像、幻影
ライゼ:ぐっぬぅ……ぎぎ……んがぁっ! 避けんなよぉっ!
ヴェーク:まぁ、お前のノーコンは置いといて、動かなくなったから結果オーライだ。いぇーい、ラッキー。
ライゼ:うるせぇっ! クソッ! 直接ブッ壊してやるつもりだったのにぃ……ふぎぎぎっ!
ヴェーク:加粒子砲(かりゅうし ほう)のオマケでついてくる電波障害で、遠隔操作が切れたみたいで良かったなぁ。
ライゼ:良くねぇっ!
ヴェーク:良いだろが……。
ライゼ:あーあー……もうちっと命中精度を向上させねぇとだな。放出前後の取り回しも、対応できるようにしねえと……準備も反動も、実戦じゃ重すぎる。
ヴェーク:おーい、反省は後にして、まず先に進むかどうか判断してくれ。
ライゼ:あー? んなもん、行くに決まってんだろ。
ヴェーク:えー。侵入が豪快にバレてて、相手の戦闘力も高そうなのに……。
ライゼ:ごほんっ。あー、こっちの戦力は、微塵(みじん)も消耗(しょうもう)していない。手札も大して明かさずに済んでいる。まだ余力が有り余っている状態で、大した成果も無く引き上げられん。
ヴェーク:しかし、先程の戦闘で退路も進路も、崩壊部位が激しく、不安定です。撤退の余裕があるいまだからこそ、安全に仕切り直すべきと、進言(しんげん)します。
ライゼ:いいよ、もう……行こうぜ? お前も、どっちかってーと行きたいだろ?
ヴェーク:うん。
ライゼ:うん……行きは、なんとかジャンプしとけば進めるだろ。帰りは……なんか、お前の魔法で何とかしろ。
ヴェーク:えー、なら、帰りは私だけ箒(ほうき)で飛んで帰るわ。
ライゼ:どっから箒(ほうき)出てくんだよ……。
ヴェーク:はは、どっかに落ちてたら良いなー。
ライゼ:へっ、んじゃあ箒(ほうき)探しも兼ねて……進むぞ。
ヴェーク:へーい。
ライゼ:んー……ここは下の方に着地すっ方が近いか?
ヴェーク:着地したらお前の重さで抜けないか?
ライゼ:あー……あり得る……ん? 電磁場検知機構(でんじば センサー)に反応が……んなっ!?
ヴェーク:どうした?
ガミジン:『電磁傀儡』(エレクトロマンス)、再起動(リブート)。
クラム:……ういーん。
シミューラ:……ぶおーん。
ヴェーク:げっ、起きたぞ、アイツら。
ライゼ:チッ、だが、片方は上と下で別れちまってるから少しは楽だろっ!
クラム:がしゃーん。もとどぉーりー。
ヴェーク:おい、戻ったぞ。
ライゼ:なんでだっ!
ガミジン:各部位のパーツは、磁力で自由に接続と切り離しができるんだよ。
ライゼ:クソッ、声だけで解説ありがとよ! こんなちっこい機械人形(オートマタ)に戦わせて、自分は隠れてやがるとは、良い趣味してんなぁっ!
ガミジン:……はぁ、黙りなよ、ガキくさい。
ライゼ:へっ、人形遊びしてるテメェに言われたかねぇな。
ガミジン:煽って怒らせれば、少しは倒しやすくなるとでも思ってんの? それなら必要無いよ。もう……結構ムカついてんだ、ガミたんは。
ライゼ:ガミたん?
ガミジン:『電磁傀儡』(エレクトロマンス)……『二体結合』(バイナリー バインド)……!
シミューラ:いまこそー。
クラム:ひとつにー。
ヴェーク:奴らの体がバラバラに……?
ライゼ:まさか、合体すんのかっ!? カッケェな!
ガミジン:起動(アクティベート)……『シミュラクラム』。
シミュラクラム:ご機嫌よう。そして、さようなら。
ライゼ:防御だっ!
ヴェーク:えぇっ、またかっ!
シミュラクラム:『超電導――』(リニア)……!
ヴェーク:なっ、はやっ……!
ライゼ:お……っ!?(※言い淀み、混乱する)
シミュラクラム:『戦槌』(ハンマー)!
ヴェーク:ぐっ、うわあぁぁ!
ライゼ:っ……! あぁっ、クソッ! 足場ごとブチ抜いて2人で落ちて行きやがった! ……っ、なんだってんだ……こんな時に、混乱させんじゃねぇ……クソッ!
ガミジン:なにしてるの? お友達が心配なら、早く行ってあげたら?
ライゼ:うるせぇな、テメェの口車に乗るようで癪(しゃく)だが……行ってやるよ! 防御機構、『衝撃吸収』(ショック アブソーブ)、展開っ! 待っとけ、ゴラァアァア!(※跳び降りる)
〜〜〜〜〜〜
*【Rede】読み:レーデ 意味:語り、演説
ライゼM:博士は、面倒臭せぇ話が好きだった。
ヴェル:魔法とは何か……よりもぉ、もぉ少し我々に身近な、似た議論としてぇ。アンドロイドとAI(えーあい)を、どう区別するのかぁ、という物があるんですがぁ……ご存知です?
ヴェークM:厄介なことに、興味無さそうにしたって、構わず話を続けてくる、喋り好きでもある。
ヴェル:ふふ……それは非常にぃ、曖昧な境界です。科学的にもぉ、生物学的にも、ねぇ。
ライゼM:相槌(あいづち)を打ちながら、ほとんどの話を聞き流して過ごした。
ヴェル:どこまでが生体ならぁ、ソレなのか。どこまでが機械なら、ソレなのかぁ。
ヴェークM:だから、碌(ろく)に覚えていないことばかりだ。
ヴェル:プログラムで組まれているとは言え、人格や性格が感じ取れる、高性能なAIは、アンドロイドとなり得ないのか? そして、脳から全身の神経、全てまでが機械部品で構成された体を持つアンドロイドは、AIなのではないか?
ライゼM:だけど、碌(ろく)でも無いことほど……無駄に覚えている。
ヴェル:分からない定義。決まらない線引き。アンドロイドを解体しても判別つかずぅ、限りなく人間に近づけたAIを作成してもぉ、識別出来なかった……。だけれどぉ……そんな曖昧な境界に、どうしてか、我々は明確な線を引ける。
ヴェークM:大事なことでも、何でもないのに。頭にこびりつく。
ヴェル:あなたはソレぇ、これは違う、わたしはソレぇ、それは違う……共有されている知識が、余りにも少ないというのに。なぜぇ、アンドロイドと、そうで無い物を、我々は即座に区別できるのかぁ……。
ライゼM:答えの無い雑談。
ヴェル:その難題の答えは、実に明白ですぅ。
ヴェークM:取るに足らない雑談。
ヴェル:全くもって、益体(やくたい)のない物となってしまいますがぁ……。
ライゼM:だが、博士は……意味の無い話を、しない。
ヴェル:「アンドロイドを区別できるから」、でしか無いんですよぉ。
ヴェークM:なんだ、
ライゼM:そりゃ。
ヴェル:ふふ……もしかすると、アンドロイドという存在も……魔法なのかもなぁ、とか?
ヴェークM:アンドロイドと魔法。まったく……。
ヴェル:魔法はぁ、科学で無いと証明し切れていない。なのに、魔法は魔法だとぉ、決め付けられている。そういう共通点が、あるんですよねぇ、この話。
ライゼM:……クソみてぇな、面倒臭せえ話だ。
ヴェル:でぇ……魔法とは、いったいなんなんでしょうね? ねぇ……ライゼ君。
〜〜〜〜〜〜
*【Wut】読み:ヴート 意味:苛立ち、怒り
ガミジン:……はぁ、気絶したのに、防御魔法だけは機能してるなんて……ムカつく。
シミュラクラム:自身が危険な状態なほど、堅固(けんこ)となるようです。このまま攻撃をするより、魔力が切れるのを待つのが良いかと。
ガミジン:そうだね……もう片方を壊して待とうか。
ライゼ:……スゥーパァー!
シミュラクラム:来ましたか。
ライゼ:ライゼェー!
ガミジン:うるさ……。
ライゼ:着地ぃ! どぉりゃあっ!
シミュラクラム:ムンッ……フンッ!
ライゼ:うおっ、とと……へっ、やるじゃねえかっ。
ガミジン:着地とか言いながら、ダイレクトに攻撃してくるなんて、せこ過ぎない?
ライゼ:各種エネルギーを利用した、効率の良い攻撃だろうが。そんなんも分かんねえのかよっ。
ガミジン:シミュラクラム。
シミュラクラム:ムンッ!
ライゼ:うおっ! ハッ、怒んなよ、ガキ!
ガミジン:だから……ガキはお前だろ。
シミュラクラム:『超電導・戦槌』(リニア・ハンマー)!
ライゼ:ふぐっ……だぁっ!
ガミジン:へぇ、良い防御機構だね、それ。
シミュラクラム:衝撃を殺されましたか。しかし、ノーダメージとはいかないようですね。
ライゼ:へっ、こんなんダメージに入らねーよっ!
ガミジン:口の減らない奴……。
ライゼM:クソッ、『衝撃吸収』(ショック アブソーブ)を貫通するとか、どんな威力だよっ、イカれてやがる……。かなりエネルギーも消耗しちまった……どうしたもんか。
ガミジン:無駄口を叩けないくらい、攻撃してやろうか、シミュラクラム。
シミュラクラム:御意(ぎょい)。『超電導――』(リニア)
ライゼ:チッ、兵装展開っ!
シミュラクラム:『連射砲』(ガトリング)
ライゼ:『血の砦』(ブルート・フェストゥング)! ……っ、ぐあぁあぁ!
ガミジン:並の防御壁じゃ防げないよ、バカじゃないの?
シミュラクラム:超電速(ちょう でんそく)で撃ち出す鉄球の雨。私の見立てでは、致命傷に至るまで、30秒もかかりません。
ライゼ:ぐぁっ、そぉ……! 『出、力』(アウス、ガング)……っ!
ガミジン:なんだ……熱源感知?
ライゼ:『血機逆巻』(ブルート シュトゥルム)!
シミュラクラム:んむ?
ガミジン:アイツから流れた血液が、体を覆ってる?
ライゼ:こいつは、正確には血じゃねぇ……さらに行くぜぇっ!
ガミジン:防御壁を捨てた?
シミュラクラム:愚(おろ)かな、自(みずか)ら体を晒(さら)すとは……。
ライゼ:『雷速――』(ブリッツ ラウフ)!
シミュラクラム:んむっ!?
ガミジン:なっ、加速……!
ライゼ:『――鮮血刺突』(シャルラッハ・シュトース)!
シミュラクラム:むぅぅうんっ!
ガミジン:『分離』(パージ)!
ライゼ:チィッ、バラバラになって逃がしやがったかっ! 卑怯(ひきょう)だぞ、テメェ!
ガミジン:……よくも。
ライゼ:あ?
ガミジン:よくもよくもよくもっ、ガミたんの人形にっ、傷をつけやがったなっ!
ライゼ:っ、なんだぁ、いきなり……ブッ壊れるのが嫌なら、テメェ自身でかかってこい、ボケ!
ガミジン:……はぁ、はぁ……良いよ、やってやろうか。
ライゼ:へっ、出来んのかぁ? 人形遊びが大好きな、ぼっちゃんによぉ!
ガミジン:……『電磁傀儡』(エレクトロマンス)
ライゼ:なんだ……またくっつけるのか?
ガミジン:『磁化導着』(フェロマージ)……。
ライゼ:……なるほど、自分に色々くっつけるのか……っ!?
ガミジン:んらぁっ!
ライゼ:ぐっ、うぁあぁあ! ぁだっ!
ガミジン:はぁ……『磁力衝突』(マグノ・クラッシュ)。別に技名言わないと殴れない訳じゃないからね。先に殴っといたよ。
ライゼ:うぅ……。
ライゼM:なんだ、まだよく分かってねぇ……殴られた、のか? まぁ、そうか……反応出来なかった……防御機構に回すエネルギーも追いついて無かったからな……クソッ、痛てぇ。
ガミジン:引きこもってるお友達のクッションで休んでないでさ……かかって来いよ。
ライゼ:へっ……ふかふかで気持ち良くてなぁ……起き上がるのが、億劫(おっくう)になっちまってよ。
ライゼM:背中にあるこの感触は、アイツの繭玉(まゆだま)か……何してんだよ、さっさと出てきて一緒に戦えや、ボケ!
ガミジン:そんなに気持ち良いんなら……。
ライゼ:っ、おいっ、そろそろ起きろっ! ぁ……っ、おいっ!(※言い淀みながら)
ガミジン:……そこで永眠させてあげるよ。
ライゼ:クソッ……ん? はっ!? んなっ……糸が絡(から)み付いて……うぁっ!
ガミジン:『超電導・破城槌』(リニア・ブレイカー)!
ヴェーク:『繭、玉』(ココン、クーゲル)……。
ガミジン:…………はぁ……繭(まゆ)の中に潜られたか……それにしても、これでもビクともしないなんて……ムカつく。あー……ムカつくムカつくムカつくムカつくぅー! うらっ! ……はぁ……ムカつく。
〜〜〜〜〜〜
*【Kokon】読み:ココン 意味:繭、蛹の殻
ライゼ:どぅわっ! てぇ……なんだってんだ……。
ヴェーク:……おい、乗っ、てる……どけ。
ライゼ:うおっ、悪りぃ! てか、おまぇ……っ。
ヴェーク:……はは、ちょっと……防御魔法が、間に合わな、かったんだ……落ちてから、追撃もくらって……酷い、ことに……なってるだろ?
ライゼM:横たわる体についた、右の腕と脚は、正常な方向を向いていなかった。
ライゼ:……お前、大丈夫なのか?
ヴェーク:はは、大丈夫に、見えるのか?
ライゼ:軽口(かるぐち)たたいてんじゃねえっ。痛みとか……動けないんだろ?
ヴェーク:あぁ……首でさえ、動かせないくらいだ……おかげで、自分の体が、どうなってるか……見なくて済んでる。
ライゼM:左上を見るような形で、首は動かないらしい。そのぼんやりした眼に、自分の体は映らない。
ヴェーク:痛みは……この繭で、遮断(しゃだん)されている……ここへ、痛みは届かない……。
ライゼ:……そうか。
ライゼM:体の損傷が激しいのは、明らかだった。見て分かる、これじゃ医者には治せない。
ヴェーク:とりあえず……このザマじゃ……もう、私はお荷物だ…………だから。
ライゼ:おい、つまんねぇその先を言う前に……俺の質問に答えろ。
ヴェーク:……なんだ?
ライゼ:お前……っ……誰だ。
〜〜〜〜〜〜
*【Geschichte】読み:ゲシヒテ 意味:話、物語
ヴェル:ライゼ君、魔法についての解析がある程度進んだのでぇ……ちょっとした実験をさせて頂いてもぉ?
ライゼ:実験? まぁた碌(ろく)でもねぇことしようとしてんな?
ヴェル:失礼ですねぇ……他人がどう感じるかはしりませんけどぉ、私にとっては、意味も価値もある素晴らしいことなんですよぉ?
ライゼ:そーかい。んで? 何をすりゃ良いんだ? 脳をいじるとか、取り返しのつかない生体改造(せいたい かいぞう)はやらねぇからな。
ヴェル:そんなのさせたこと無いでしょう……。難しいことは何もしませんよぉ……ライゼ君には、ただぁ、魔法を観測し、体感し、反応して貰う……それだけです。
ライゼ:あー? それじゃ、何もしなくて良いじゃねぇか。
ヴェル:まあ、そうとも言えますけどぉ。これは、先に伝えておくことも重要な実験の要素なんですねぇ。
ライゼ:ふーん。じゃあ、精神に作用する系の魔法の実験ってことか?
ヴェル:おぉう……突然、頭良さげに……。
ライゼ:そこまでバカじゃねぇよっ。
ヴェル:ま、まぁ……解析を行って、魔法を出力させる為のプロンプトは、ある程度判明しましたからねぇ……第三者を含めた実験を行う段階に来たって感じです。
ライゼ:へぇー。タングリスニ国に行っちまってから、魔法まで科学にしちまったって訳か。へっ、どんだけ強くなるつもりだよ。
ヴェル:別に強くなる為にやってる訳じゃ……まあ、単なる知的好奇心って奴ですよぉ……。
ライゼ:んじゃ、とりあえず。どうすれば良いんだ? 会おうにも、そっちとこっちじゃ距離が離れすぎてるし、いまじゃ簡単に会える立場でも無ぇからな。
ヴェル:そうですねぇ、ついでにやって欲しいことがあるのでぇ……そっちを含めて、私の方で色々手配します。集合場所と日時を決めて、そこで落ち合うようにしましょう。
ライゼ:分かった。で、ついでってのは?
ヴェル:あぁ、詳細は後で伝えますけど。ちょっとぉ……私たちが追っている虫が、新しく巣を作ったみたいで……ねぇ。
ライゼ:へぇ、そりゃあ良い、ついで、だな。暴れがいがありそうだぜ。
ヴェル:あんまり壊しまくって欲しくは無いんですけどねぇ……。
ライゼ:あー? ブッ壊すんじゃねぇのかよ。
ヴェル:いやぁ、どんな研究してるのか気になるんですよぉ、そこから親玉へ行き着けるかもしれませんしねぇ。
ライゼ:なるほどなぁ……分かった、ほどほどに、だな。
ヴェル:頼みますよぉ……あ、そうだ、ライゼ君。実験の話になるんですけどねぇ……。
ライゼ:あん? なんだよ。
ヴェル:こんな話をご存知ですか?
〜〜〜〜〜〜
*【Du】読み:ドゥ 意味:君、お前
ヴェーク:……誰、って……どういう意味だ?
ライゼ:……お前は、俺たちの傭兵団の中でも実力が高く、俺の信頼に値する奴だ。だから、俺の右腕と呼ぶ奴も多い。
ヴェーク:……別に、そんな言われるほどじゃ無いけどな……。
ライゼ:お前の気さくな態度も、接しやすくて助かるし……気遣いが……出来る時は出来る点も、博士や俺らに重宝されている理由だ。
ヴェーク:……やめろ、そんな恥ずかしいこと言うの……ただでさえ、いま、こんななんだぞ。
ライゼ:……サポート気質だが、その気になりゃ、前線で大将首(たいしょう くび)を取ることだって可能……そんな、俺の親友みてぇな奴が……お前だ。
ヴェーク:……はは。
ライゼ:そんな……そんな奴の……名前を、俺は知らねえ。
ヴェーク:……名前?
ライゼ:お前の名前を……何度か呼ぼうとした。だけど、おかしいんだよ……お前の名前が、俺の記憶には、無い……。
ヴェーク:……いままで……言って無かった……なんてこと、あるか? お前……体、機械にしすぎて……脳が、老化してんじゃないか……?
ライゼ:うるせぇっ! そんな訳ねぇだろ! お前の名前だけじゃねぇ、お前と一緒にやったことっ、お前とどこで出会ったかっ、お前のことが……他に、何も記憶にねぇんだよ!
ヴェーク:……何を、言ってるんだ?
ライゼ:……お前、博士からタングリスニで魔導トラックを受け取って、集合場所まで来たって言ってたな。
ヴェーク:……あぁ。
ライゼ:お前、それまではどこにいたんだ?
ヴェーク:……しばらく、博士のところで、手伝いを……。
ライゼ:その、前は?
ヴェーク:……前……前は……。
ライゼM:軋む音が、繭の中で溶ける。
ヴェーク:あれ……何を……私は……。
ライゼ:お前、自分の生まれたところとか、誕生日とか……そんなのも『知らない』んじゃないか?
ヴェーク:……ライゼ、私は。
ライゼM:震えた言葉に、壊れた体から、綻(ほころ)びが落ちた。
ヴェーク:……私は……何だ?
〜〜〜〜〜〜
*【Brechen】読み:ブレッヘン 意味:壊す、破る
ガミジン:……ダメだ、上手く検知出来ない。どんだけ繭の中で耐えるつもりだよ……はぁ。魔力中和機構もここじゃ使えないし……ドリルとかでなんか上手く壊せないかな……あとは、燃やす……いや、それもマズイか……じゃあ、あとは……。
バルバトス:あ″ぁー、まぁだ終わって無かったのかぁー?
ガミジン:ウギァッ!? びび、びっく、びっびっくりしたぁっ!
バルバトス:毎度毎度、大仰(おおぎょう)な奴だなぁー、ギァギァギァ……。
ガミジン:も、もうっ、気配消して近づいて来るのやめてよ! 検知出来ないし、びっくりするんだよそれっ!
バルバトス:あ″ぁー、悪かったよぉ。そんでぇ……この白い塊(かたまり)は何だぁ?
ガミジン:はぁ……敵の防御魔法だよ。
バルバトス:んなこたぁ分かってらぁ……何で放置してんのか、って聞いてんだよぉ。
ガミジン:べつに、放置したくてしてるんじゃ無い……壊すのが簡単に出来ないから、手出しできないんだよ。
バルバトス:ギァギァギァ……なるほどなぁー。お前の人形と、その装甲モードでも歯が立たねぇってことかよぉ、ギァギァギァ……。
ガミジン:……ムカつくけど、そうだよ。……バルバトス、魔法でどうにか出来ない?
バルバトス:あ″ぁー? お前なぁ……魔法ってのは、何でも出来る便利な力じゃねぇんだぞぉ?
ガミジン:分かってるよっ。
バルバトス:ギァギァギァ……まぁー、そんくらい困ってるっつぅ訳かよぉ……。良いぜぇ、やってみてやろうじゃねぇかぁ。
ガミジン:え、ほんとっ!?
バルバトス:あ″ぁー、ブッ壊れるか分かんねえけどなぁ、ギァギァギァ……。
ガミジン:良いよダメでもっ、やってみてっ。バルバトスがガミたんの為にやってくれるだけでも嬉しいんだ!
バルバトス:ギァギァギァ……大仰(おおぎょう)な奴だぜぇ、まったくぅ……。『あなたが銃声の様に泣く、狩りは愛しいな--』
ガミジン:いっけぇ!
バルバトス:『泣声』(サンパー)
※マグナムのような重い銃声。
〜〜〜〜〜〜
*【Freund】読み:フロイント 意味:味方、友達
ライゼ:お前が何か、なんて……俺が知りてぇよ、そんなの。
ヴェーク:……私は。
ライゼ:でもな……いま、そんなこたぁ、どうだって良い。
ヴェーク:……なに?
ライゼ:肝心なことは、何も変わらねぇ。……お前が俺の味方だってことと、俺がお前を仲間だと思ってること。……それだけは、きっと、どんな真実でも、いまは変わらない……違うか?
ヴェーク:…………分から、ない。お前の味方だって……そう思いたい。……けれど、私は……自分がもう、何なのか、分からない……お前の敵だったって……おかしくないだろ。
ライゼ:……その可能性は確かにゼロじゃ無い……けど、それは無いって、断言してやるよ。
ヴェーク:……なんだ、それ。
ライゼ:何だって良いだろ。俺が、お前を信じてやるっつってんだ。
ヴェーク:……ははっ……私が、何だって……敵だったって……お前が味方だと思ってやるから、良いってか?
ライゼ:あぁ。
ヴェーク:っ……ふざけんじゃねぇっ……ライゼ! そんな同情みたいに……無駄なリスクを受け入れるなっ!
ライゼ:無駄じゃねぇよ。必要なリスクだ。
ヴェーク:なわけ、あるかっ! こんな……得体(えたい)の知れない奴……信じて良い訳、無いだろうがっ!
ライゼ:……その言葉で充分だろ。
ヴェーク:はぁ?
ライゼ:自分を信じるなって言う、お人好(ひとよ)しが敵だったとしても、全然怖かねぇよ。お前の記憶が……「設定」が嘘だったとしても、お前との関係を、嘘にする必要はねぇだろ。
ヴェーク:……どっちがお人好しなんだ、バカライゼ。
ライゼ:へっ、うるせぇよ。てか、お前ばっかり名指しでバカにしやがんじゃねぇよ。さっさと名前を教えろ、バカ。
ヴェーク:……はは、教えたくなくなるな。
ライゼ:観念しろ。直してやんねぇぞ。
ヴェーク:……直す?
ライゼ:あぁ……医者じゃ治せねぇ、お前の体を……残念ながら、俺は直せる。応急処置程度だがな……。
ヴェーク:それはどういう……。
ライゼ:……話を逸(そ)らすなよ。名前が先だ。
ヴェーク:……あぁ……直せるって……そうか……そういうこと、か……。
ライゼ:……おい、バカ。余計な勘繰(かんぐ)りしてないで、教えろつってんだよ。
ヴェーク:……あぁ……私の名前は「ヴェーク」だよ。
ライゼ:……バカ「ヴェーク」、か。
ヴェーク:あぁ……そうだ、バカライゼ。
ライゼ:うるせぇっ。
ヴェーク:はは……ライゼ……私は……私の体は……。
ライゼ:……大丈夫だ。ある程度の心得(こころえ)はある。なんせ……マリシの軍人だからな。
ヴェーク:……あぁ、そりゃあ信頼できる言葉だな……。
ライゼ:おう、任せろ。そんで直ったら、さっさとアイツらぶっ飛ばして……博士をブン殴りに行くぞ。
ヴェーク:はは……そうだな。……っ!
ライゼM:銃声の様な音が鳴り、衝撃が背に突き刺さった。
ヴェーク:ライゼッ!
ライゼ:ぐぁっ! ……っ、なんだ……いってぇ……クソッ!
ヴェーク:繭を貫通された……? この感じ……さっきの人形が使った、魔法攻撃か……!
ライゼ:へへっ……敵も待つのに、飽きちまったみてぇだなぁ……防御機構展開っ。
ヴェーク:おいっ、ライゼもう良い! お前だけでも脱出しろっ! このままじゃ……!
ライゼ:うるせぇ、黙ってろ! もう、そんな時間かかんねぇよっ。出来ることも多くねぇんだ……それに、いまの食らっちまったからな……どの道、1人じゃキツいだろうよ。
ヴェーク:……でもっ。
バルバトス:……『泣声』(サンパー)
ライゼ:っ、ぐぅっ!
ヴェーク:っ、お前の防御機構も貫通されてるじゃないか! もう時間をかけてられないだろ!
ライゼ:……なぁ、ヴェーク。魔法って、何だと思う?
ヴェーク:はぁ? そんなの……いまはどうでもいいだろ!
ライゼ:魔法ってのは……博士が言うには、『描写力』と『伝達力』なんだとよ。
ヴェーク:はぁ?
ライゼ:自分が思い描いた力を、現実に反映させる。その為に必要なのは、自分の魔法への詳細なイメージ……つまり『描写力』と、魔法が影響を与える、人や世界への『伝達力』だ。
ヴェーク:だから、何を言ってるんだ……関係ないだろ、いま!
ライゼ:いいや……いまだからこそ、お前に伝えないといけねえんだよ……それが、あの博士(バカ)の……予定調和だ。
ヴェーク:……予定調和?
〜〜〜〜〜〜
*【Magie】読み:マギーエ 意味:魔法、魔術
ヴェル:ライゼ君。魔法とは『描写力』と『伝達力』。それは理解、頂けましたかねぇ?
ライゼM:音だけが、頭に再生される。
ヴェル:人は魔法を行使する時、呪文を唱(とな)えたり、唱えなかったりしますがぁ……それは、自分が明確にイメージが出来ているかどうか、と、相手に明確にイメージさせたい、という意図がぁ、無意識的にあるんですよぉ。
ライゼM:博士の声は、魔法の解析結果を、滔々(とうとう)と語っていく。
ヴェル:無詠唱(むえいしょう)で魔法を使う、またはごく短い魔法名だけで魔法を使う場合はぁ、イメージが簡単に出来る状態となります。『炎』って魔法名で、結果、火が出るぞぉー、ってだけなら、簡単ですよねぇ? ただ、難しい内容……例えばぁ、魔法名が『押す』とかならぁ、分かりにくいし、伝わりにくいですよねぇ。
ライゼM:また、いつもの面倒臭い話だ。
ヴェル:どのくらい、何を、どんな感じで、何がぁ、『押す』のか。はたまた、相手によっては、同音の別の単語に聞こえてしまうかもしれません。そうなってしまうとぉ、効果が弱まります。
ライゼM:スルーしてしまえれば、どれだけ良いか。
ヴェル:例え、自分が『押す』を明確にイメージ出来ていても、相手に伝わっていなければぁ、そこまで大きな影響がでないみたいです。面白いですよねぇ……ふふ。
ライゼM:面白いのは、博士だけなのも、いつも通りだ。
ヴェル:つまりぃ、魔法を現実へ出力するには、明確に、鮮明に、「妄想する」必要があり、しかもそれを、相手にも同じ様に「妄想させる」必要があるんですねぇ。そこまでして、最高の威力が出せる……それが魔法。
ライゼM:ただそれだけなら、誰もが使えてしまうじゃないか、魔法を。
ヴェル:無機物への影響のみなら、自身のイメージだけで良いんですけどねぇ。やはり、観測者や協力者がいた方がぁ、影響力は上がっていく様です。だから、大人数で唱える魔法とかあるんでしょうねぇ。
ライゼM:いや、使えるんだろうな。ただ……使えるなんて思えない奴が多いだけか。
ヴェル:……ふふ、これを何となくでやってきたんですよ、人類は。まったく……面白いですねぇ。
ライゼM:その面白いって話を、ちっとも面白くないように話せてしまうなんて、恐れ入るぜ。
ヴェル:てな訳でぇ、ライゼ君。貴方はこのことを、魔法の綻(ほころ)びを捉(とら)えた際にぃ、思い出します。そして、それを貴方のお仲間へ伝えることでぇ……魔法の力を最大限に発揮できるようになる。
ライゼM:これが、どんな結末に繋がるのかは、俺には分からねぇ。
ヴェル:そうなって初めてぇ……自分の存在を最大限に利用した、最高のパフォーマンスを発揮(はっき)出来ることでしょう……貴方が、それを観測すればぁ、ですけどね。
ライゼM:ただ、これだけはハッキリしてる。
ヴェル:ライゼ君。いま、この瞬間は……貴方は私を殴ることも、恨(うら)むことも、罵(ののし)ることも出来ません。催眠術のような魔法ですからねぇ、これは。
ライゼM:本当に碌(ろく)でもねぇことにしかならない、ってのだけは……確かだ。
ヴェル:だから、優しい貴方は、この魔法の結果を覚えていたらぁ……私を殺しに来るのかもしれない。その権利が貴方にはあるのだから……その時は、謹(つつし)んで受け入れましょう、私は器がでぇっかぁーいのでぇ。
ライゼM:こんなクソみたいなとこまで、思い出さなくて良い。
ヴェル:ただぁ……ライゼ君。これだけは勘違いして欲しく無いのですけどぉ……私、ライゼ君のことが嫌いだから、こんな酷いことをしてるんじゃ無いんですよ?
ライゼM:分かってる……どうせ博士は。
ヴェル:私はねぇ……ライゼ君。誰にも等しく、感情なんてもの、抱いちゃいないんですよぉ。
ライゼM:ろくでなし、だよ。
〜〜〜〜〜〜
*【Schlupf】読み:シュルプフ 意味:羽化、孵化
バルバトス:ほぅらぁー、もうちっとだぜぇ、ギァギァギァ……。
ガミジン:すごい……1点に火力を集中することで、少しずつ防壁を壊せてる……。
バルバトス:ガァミジン、ボーッとしてねぇで、構えとけよぉ? あっちだって壊れるのは分かってんだぁ……ぼんやり死ぬのを待ってる訳ねぇからなぁー、ギァギァギァ……。
ガミジン:うっ、分かってるよ……はぁ。
バルバトス:……なぁ、壊した後は、どうすりゃ良い? お前に任せといて良いのかぁー?
ガミジン:まぁ、べつに良いよ。どうせ防戦一方だったんだから、防御出来なきゃ終わりだよ。それに……魔法使いの方は、もうまともに動けなさそうだし。ガミたんだけで充分だよ。
バルバトス:そうかぁー……気配消しといて、いざとなったら横槍(よこやり)入れてやろうかぁ?
ガミジン:良いよ、別に……そんなの必要無いくらい、ガミたん達の方が強い。
バルバトス:ギァギァギァ……んじゃー、これ撃ったら隠れとくからよぉ……後は任せたぜぇ…… 。『あなたが銃声の様に泣く、狩りは愛しいな--』
ガミジン:『電磁傀儡』(エレクトロマンス)
バルバトス:『泣声』(サンパー)
ライゼM:重く響いた銃声に、繭が破(やぶ)れる。
ガミジン:『超電導・破城槌』(リニア・ブレイカー)!
ライゼM:そこへ、容赦無く、機械の大槌(おおつち)が振り下ろされた。
ヴェーク:『蜘蛛の巣』(シュピネンネツ)
ガミジン:っ、なっ!?
バルバトス:(※隠れ中)ガミジンの攻撃を、完全に停止させるかよぉー……ギァギァギァ……おもしれぇ。
ヴェーク:……はは、凄いな……魔法も……ライゼ、お前も。
ライゼ:へっ……大したこと、してねぇよ……っつぅ……。
ヴェーク:無理するな、お前だけまともに攻撃を受けたんだ……休んでおけよ。
ライゼ:何言ってんだぁ? お前にだけ……っ、ははっ、良いとこ持ってかれて、たまるかってんだ!
ヴェーク:……はっ、仕方ないバカだ。
ライゼ:うるせぇよ、クソバカっ!
ヴェーク:じゃあ、お前は超究極バカライゼだ。
ライゼ:なら、テメェはウルトラ スーパー スペシャル バカヴェークなっ!
ヴェーク:……はっ!
ライゼ:……へっ!
ガミジン:何イチャイチャしてんだ……バカ共がっ! うらぁっ!
ヴェーク:もう、糸を切られたか……行くぞ、ライゼ! ついて来いよ!
ライゼ:誰に言ってんだよ! お前こそ、またブッ壊されんじゃねぇぞ!
ガミジン:『電磁傀儡』(エレクトロマンス)!
ヴェーク:魔装展開(まそう てんかい)!
ライゼ:兵装展開(へいそう てんかい)!
ガミジン:『模造電影』(シミュラクラム)!
ヴェーク:『過剰防衛』(ノートヴェーア・エクツェス)!
ライゼ:『制圧装置』(ツヴァング・アパラート)!
〜〜〜〜〜〜
*【Doppel】読み:ドッペル 意味:二重、2つ
ガミジン:潰れろっ、『超電導・戦槌』(リニア・ハンマー)!
ライゼ:うおっとぉ!
ガミジン:『双撃』(ダブル)!
ライゼ:ぐっ、『雷速』(ブリッツ ラウフ)! ……いよっし、回避っ!
ガミジン:はぁ……逃げ足が速い……避けるなよ、卑怯者(ひきょう もの)。
ライゼ:避けるわっ! つーか、卑怯なのはどっちだよ。分身しやがって。『シミュラクラム』って、さっきの人形じゃねぇのかよ。
ガミジン:この『模造電影』(シミュラクラム)は、ガミたんのボディを擬似的に再現することで、本体と同様のパフォーマンスを可能にしてある。加えて、電脳をリンクすることで、手足を動かすのと同様に、もう1つの全身を動かせるんだ。
ライゼ:話が長え奴だなっ! 要点だけ言え!
ガミジン:はぁ……つまり、『模造電影』(シミュラクラム)は、ガミたんの完璧な模造品(もぞうひん)であり、完全な同一個体(どういつこたい)。超高精度での連携が……いや、連動が可能なガミたんに……別個(べっこ)の鉄屑(てつくず)である君たちが勝てると思うの?
ライゼ:……へっ!
ヴェーク:知らねーよ、バーカ。
ガミジン:っ!
ヴェーク:『白磁の針』(ポルツェラン・ナーデル)!
ガミジン:うっ……チッ、モヒカンで死角になったところから攻撃なんて、ダサくて、せこいよ。
ヴェーク:ダサいけれど、せこくは無い。
ライゼ:なんだそれ、モヒカンがダセぇってのか、あぁ!?
ヴェーク:モヒカンはダサいだろ。
ライゼ:ダサくねぇよ、ダサダサ長髪野郎!
ヴェーク:黙れ、フサフサハゲ!
ライゼ:んだとぉ!?
ガミジン:『超電導・戦槌』(リニア・ハンマー)! ……『双撃』(ダブル)!
ライゼ:うるせぇっ!
ヴェーク:邪魔するなっ!
ガミジン:なっ!? 受け止めたっ!?
ライゼ:『出力』(アウスガング)……!
ヴェーク:『下(した)ごしらえは済んだ――』
ガミジン:ウギ……『電磁――』(エレクトロ)
ヴェーク:『捕食の縛鎖』(ファング・ザイデ)
ガミジン:んなっ、防御機構が解除され……っ!
ヴェーク:人形もろとも、焼けてしまえ。
ライゼ:『加粒子砲』(タイヒェン・カノーネ)!
ガミジン:グッ、ウギァァアァア!!
〜〜〜〜〜〜
*【Donner】読み:ドンナー 意味:雷鳴、雷の音
バルバトス:(※隠れ中)あ″ぁー…… 加粒子砲(かりゅうし ほう)が直撃しちまったぁ。ありゃボディ融解(ゆうかい)してんだろぅなぁ……ギァギァギァ。終わっちまったかぁ……ガァミジン。
ガミジン:ギアァアァア……ッ、アァアァア! グッ、ガッ、ガッ、ガミたんをっ! ガミたんの人形をっ! よくもっ、よくもぉおぉお!
ライゼ:……チッ、まぁだ動けんのかっ!
ヴェーク:まだやるのか? 外装スキンが溶けてしまって、逆に強そうだけどな。
ライゼ:確かに!
ヴェーク:まぁ、強化は無くとも、怒り任せで採算度外視(さいさん どがいし)の攻撃してくるかもな、油断するなよ。
ライゼ:へっ、油断なんかしてらんねぇよ……。
ヴェークM:そうだ。油断なんて、もう、ここにいる誰もがしていられない。
ライゼM:いまは、こっちが優勢……だが、お互いにダメージはトントンってとこだろうな……。
ヴェークM:間に合わせで修理された手脚(てあし)……動く程に、軋み、脱落する破片。
ライゼM:落下してきてから、かなりボコスカやられちまったからな……繭の中で受けたダメージも、ダメ押しでバカみてえに痛えときた……それにもう、ほとんど攻撃と防御のリソースが残ってねぇ……。
ガミジン:『磁化導着』(フェロマージ)……!
ヴェークM:崩れた鉄入りの瓦礫(がれき)や、辺(あた)りに散らばった人形の破片が、引き寄せられていく。
ライゼ:また武装しやがるのかよ……っ、へへっ……クソッ。
ガミジン:お前らと違って……ガミたんは、磁力で纏(まと)える物がある限り……リソースは、尽きないっ!
ライゼM:こっちのリソース切れはバレてるか……そりゃそうか……こんだけ追い詰めておいて、追撃もしねぇんじゃ、透けて見えちまうか。
ヴェークM:禿(は)げた外装を覆い隠すように、重量のある瓦礫が接続されていく。
ライゼ:……おい、ヴェーク。お前、魔法はあとどんくらい使えんだ?
ヴェーク:……アレを止めたり、壊したりするのは……無理だな。
ライゼ:そうか……へっ、あの質量見ろよ。絶対俺らを殺すつもりだぜ?
ヴェーク:そうだな……どうするんだ、ボス。このままだと、2人でペシャンコになるぞ。
ライゼ:都合の良い時だけボスって呼ぶんじゃねぇよ、お前はいっつもそうだな。
ヴェーク:ははっ、そういう「設定」だからな……まあ、実際には、数回目程度だろうさ。
ライゼ:……別に、「本当」で良いだろうが、そんなん。
ヴェーク:え?
ガミジン:まだ足りないっ……磁場形成機構(じば けいせい きこう)、全開(フルスロットル)!
バルバトスM:周囲の壁や足場、機材に至るまでが、脆(もろ)い箇所(かしょ)から剥(は)がれ、ガミジンを更に強化していく。
ライゼ:ヴェーク。お前と俺は、今日「初めまして」じゃなくて良い。
ヴェークM:鳴り止まない雑音の中、はっきりと声が届く。
ライゼ:もう、この「設定」は、俺たちの「記憶」で良い……。面倒だろ? 全部忘れて1からとかよ。
ヴェークM:まるで、くだらないことのように。「嘘」(いつも)のように。
ライゼ:細けぇことで、あれこれ悩むのは性(しょう)に合わねぇし……どうせ、お前と俺が、共通の認識を持ってるのに間違いはねぇんだ。だったら、良いだろ。
ヴェーク:……何、テキトーなこと言ってるんだ。何が……良いって言うんだよ。
ヴェークM:実験の為だけに構築されたであろう……命ですらない自分。
ライゼ:何だって良いだろが。俺が全部ひっくるめて、良いって言ってんだよ。
ヴェークM:すべてを知った上で、私のすべてを肯定するなんて……。
ライゼ:つまんねぇこと聞くんじゃねぇよ、バカヴェーク。
ヴェーク:……はは……やっぱり、バカはお前だろ……こんな嘘まみれの……人間ですら無かった奴に……感情移入し過ぎだ、バカライゼ。
ライゼ:あー? へっ、そんな上等なもんじゃねぇよ、これは……。
ヴェーク:そうか……。……それで? ペシャンコになる覚悟はできたのか?
ライゼ:バーカ。そんな覚悟、して何になるんだよ。
ヴェーク:じゃあ、どうするんだ。
ライゼ:次の一撃に……全賭け(オールイン)すんに決まってんだろ!
ヴェーク:ははっ、賭け金は私らの命ってか、そりゃクソ迷惑なこった!
ガミジン:出力、200パーセント……充填(じゅうてん)完了。
ライゼ:ヴェーク、一瞬で良い、時間を止めろ!
ヴェーク:はっ、相変わらず、無茶振りばっかだな! 了解!
ガミジン:死ね……『超電導・超過力――』(リニア・オーバーロード)!
バルバトスM:電光を放ち、巨大な右腕が2人を向く。
ヴェーク:『せめて、この刹那(せつな)を永遠と錯覚したい――』
バルバトスM:現実を変容(へんよう)させるべく、静かに残りの魔力が紡(つむ)がれていく。
ライゼ:兵装展開……『戦争の怪物』(クリークス・ウンゲテューム)
バルバトスM:脚部が開き、反動を殺す為、四つ足が地面に突き刺さる。多腕兵装(たわん へいそう)の6本の腕が可変(かへん)し、1つの大きな砲塔(ほうとう)が現れる。
ガミジン:『――磁力衝突』(マグノ・クラッシュ)!
バルバトスM:電磁力で打ち出された、音速に至る、歪(いびつ)な金属の拳。
ヴェーク:『刻止めの針』(シュタウツァイト・ナーデル)……!
バルバトスM:詠唱が響く。しかし、ガミジンの拳は止まらない。全てを無視して、2人へ迫る。
ライゼ:『出力――』(アウスガング)
バルバトスM:言葉と共に、ライゼの兵装が、急速に熱を帯び、周囲にプラズマが走る。
ガミジン:うらぁあぁあぁあ!
バルバトスM:怒号と共に、拳が衝突する……瞬間。
ガミジン:っ!?
バルバトスM:堰(せ)き止められた時間が、流れを戻した。
ヴェーク:これが、限界だっ!
バルバトスM:僅(わず)かにロールバックした拳。その先で、ライゼが口端を上げた。
ライゼ:『雷絶』(ブリッツェンデ・フェアニヒトゥング)!
バルバトスM:砲塔から放たれた殲滅(せんめつ)の雷(いかずち)。雷光(らいこう)が空気を劈(つんざ)き、ガミジンの拳と突き合う。そして、熱が膨(ふく)れ、風が暴(あば)れ、轟音(ごうおん)が形(かたち)を壊(こわ)した。
〜〜〜〜〜〜
*【Ende】読み:エンデ 意味:終わり、結末
ライゼM:耳鳴りが、引いていく。
ヴェーク:……ライゼ……おい、ライゼ。
ライゼ:う……あぁ……?
ヴェーク:良かった……意識はあるみたいだな。
ライゼ:うぅ……なんだ……撃った衝撃で……気を失っちまったのか?
ヴェーク:さあな……まぁ、一時的な卒倒(そっとう)みたいで、良かった。あ……お前、右腕もげてるぞ、大丈夫なのか?
ライゼ:あぁ……そこは、機械パーツだから……セーフだな……。
ヴェーク:そうなのか……良かった……って言って良いのか、これ?
ライゼ:あー、そうだ……ガミたんとか言う奴は、どうなった……?
ヴェーク:大丈夫だ。あそこで埋もれてる。
ライゼ:……あの、瓦礫(がれき)の山か?
ヴェーク:そうだ。お前の砲撃で、どこもかしこも崩れてきて、大変だったぞ。
ライゼ:へっ……まあ、俺らに当たらなかったんなら、良し、だ……つぅっ。
ヴェーク:おいっ! ……倒れるなら足とか戻してからにしろ。運ぶ時、面倒だろが。
ライゼ:う、うるせぇな……怪我人に向かって……へへっ。
ヴェーク:はぁ……こっちだってボロボロなんだよ。魔力も残ってないし、いつまで体も動くのかわかんないんだぞ?
ライゼ:あぁ……面倒なこたぁ……任せた。
ヴェーク:おいっ! ……おい?
ライゼ:がぁ……がぁ……。(※軽めの、いびき)
ヴェーク:……寝やがった。クソが。
ヴェークM:かろうじて兵装を納め、普段の人型へ戻ったライゼを、出来るだけ端へ押しやる。
ヴェーク:……あー、疲れた。……さて、箒(ほうき)を探すわけにもいかないし……というか、見つけてもどうにもならんし。どうしたもんか……ははっ。
ヴェークM:もういっそ、ライゼが起きるまで、自分も寝て待ってしまおうか。魔力も尽きているし、体もダメージが酷い。
ヴェーク:……機械の体だって……全然、実感が湧かないな。
ヴェークM:これまで生きてきた記憶。これまでの常識。これまでの自分。そんなもの、どこにも無かったんだと……自分が一番信じられないのに……自分が一番、すべてが紛(まが)い物だったのだと、理解できてしまっている。
ヴェーク:……博士、アンタが欲しかったデータは……充分取れたよ。
ヴェークM:魔法機構(まほう きこう)の動作検証。それは、この上なく上手くいった。人格形成プログラムを限りなく人間へ近づけることで、魔法の想像を可能とした。
ヴェーク:まったく……とんだマッドサイエンティストだよ……碌(ろく)でも無い。
ヴェークM:これから自分がどうなるのかは分からないけれど、とりあえず、博士の新発明の稼働検証は成功したと言えるだろう。さすがに、スクラップ送りにはならない…‥と、思いたいな。
ヴェーク:……ん?
ヴェークM:……博士の、新発明?
ヴェーク:……まて、ここで戦った奴に……。
ヴェークM:魔法を使う奴が……。
バルバトス:ガァミジン。いつまで寝てんだよぉー。
ヴェーク:っ!
ガミジン:『電磁傀儡』(うがらいぎあがぁ)! (※以降含め 支離滅裂ならOK)
ヴェーク:なっ、瓦礫(がれき)が吹き飛んでっ!?
バルバトス:おぉー、すっかり化け物みてぇになっちまったなぁ……ギァギァギァ。そうなってまで立ち上がるたぁ……さすがオレさんの相棒だぜぇ……ギァギァギァ。
ヴェーク:お前……魔法を使ってた奴だな。
バルバトス:あ″ぁー? そぅだぜぇ。テメェと、おんなじだなぁ……ギァギァギァ。
ヴェーク:……お前も、機械か。
バルバトス:第n(えぬ)番、生体培養(せいたい ばいよう)工場、管理AI。管理番号「e8」。個体識別名称「バルバトス」……って、「設定」さぁ……ギァギァギァ。
ヴェーク:……「設定」、か。
ガミジン:あらがあぅがぁあぁあ!
バルバトス:うるせぇなぁー……言語プログラムがイカレちまったのかぁ。お″ぉい、ガミジンの奴、相当キレてるぜぇ? どぉすんだぁー? ギァギァギァ……。
ヴェーク:ははっ……面倒だから、見逃してくんないか?
バルバトス:ギァギァギァ……オレさんは、良いぜぇ? 同じ、面倒くさがりだしなぁ……だぁがぁ……。
ガミジン:ぐらぁがらぁあぁあ!
バルバトス:ガミジンはぁー……どうかねぇ?
ヴェーク:はっ、どっちみちか……。まったく……とんだ「設定」(じんせい)だ。
ガミジン:『超電47=5(々722_648%8^6137>643』(ゔぁるがらぁががががががぁあぁあ)!
バルバトスM:目覚めない友を背に、魔力の尽きた機械が、イカれた化け物へ向き直る。
ヴェーク:……ライゼ。私とお前は、今日が「初めまして」じゃなくて良いって、言ったな。
ライゼM:どこかで、声が聞こえる。
ヴェーク:私も、賛成だ。……私と、お前は……今日、いや……「一生、出会うことは無かった」んだ。
バルバトスM:拳が軋む。踏みしめた脚が割れる。
ヴェーク:お前が私のことを忘れる条件は……私が、機械としての「兵装」を起動させること……。ははっ……これも博士の計画通りなんだろうな。
ライゼM:聞き慣れたような。知らないような。誰かの声。
ヴェーク:……まあ、この感情もプログラムされた物なんだ……私にとっては、そりゃショックだけど……お前は、何も気にするな。
バルバトスM:届くはずもない言葉を、バカみたいに吐き出しながら。機械の体は、自分が知らない機構を、静かに起動していく。
ヴェーク:私たちを結んだ縁(えん)が、ゆる過ぎたってだけさ。勝手に解(ほど)けてしまうくらいに、何も無かったんだよ……最初からな。
ライゼM:泡のように、形を残さず。声はまた、どこかへ消えていく。
バルバトスM:青白い光の粒子が、機械の体から漏れ出す。
ヴェーク:あぁ……なんか、でも。
バルバトスM:心臓の鼓動とは、似ても似つかない音が、体の内から響き渡る。
ヴェーク:……悪くない「設定」(うそ)だったかもな……。
ガミジン:がぁらあぁぁあぁあ!
ヴェーク:……兵装……展開。
バルバトスM:光が、空間を包んでいく。
ライゼM:最初から、何もかも、無かったように。消えていく。
ヴェークM:死ぬぞ。と、誰かが言った。
ヴェーク:『霊子……駆動』(エーテル……ドライブ)……。……っ!
ヴェークM:そうだな。と、私が頷いた。
ヴェーク:っ……いまだけで、良い……!
ヴェークM:だから。死ね、と。自身に言い聞かせた。
ヴェーク:……頼む、頼むよ……一度きりだっ。
ヴェークM:勇気を。
ヴェーク:……この、一度きりで、いいんだっ!
ヴェークM:勇気を。勇気を。勇気を。勇気をっ。
ヴェーク:勇気をっ!
ヴェークM:死ぬ勇気をっ、私にっ!
ヴェーク:っ、『霊子駆動』(エェテルドライブ)! 『二律背反』(アンティノミィー)!
ライゼM:……そして……すべてが、白い光の中へ。消えてしまった。
〜〜〜〜〜〜
*【Weh】読み:ヴェー 意味:痛み、悲しみ
ヴェークM:……おい……おい、ライゼ……そろそろ……おい、ライゼ。
ライゼ:……んぁ。
ヴェル:おや、お目覚めですかぁ? おはようございますぅ。ライゼ君。
ライゼ:んー……博士ぇ? あー? え……どういう状況だ……?
ヴェル:はぁーい? 何を寝ぼけていらっしゃるんですかぁ……まあ、ずっと寝てたからぁ、ここがどこかとか、分かんないでしょうけどねぇ。
ライゼ:分かんねぇんじゃねぇか……っ、痛ぇ、なんか、全身が微妙に痛ぇ……。
ヴェル:そりゃあ、あれだけボロボロだったら、痛いんでしょうよぉ。まったく……偵察が、どぉーしたら殲滅みたいなことになるんですかぁ……頭が痛いですよぉ、私もぉ……。
ライゼ:……偵察? んー……あれ……何してたんだ……俺。
ヴェル:えぇ……記憶喪失にでもなったんですかぁ? ライゼ君、電脳にしないからそうなっちゃうんですよぉ?
ライゼ:関係ねぇだろ、電脳だって、あんなことありゃブッ壊れるだろ……あ? あんなこと?
ヴェル:ちょお……怖いですってぇ……なんなんですぅ? 1人で思い出したり忘れたりぃ……身体データは……特筆した異常は無いと思うんですけどねぇ。
ライゼ:……なぁ、博士。偵察ってさ、俺1人だったのか?
ヴェル:……知りませんよぉ、そんなのぉ。偵察を頼んだのは私ですけどぉ、人的リソースは、ライゼ君の傭兵団の状況によるじゃないですかぁ。だから、そちらにお任せしてましたよぉ。何人で行ったかなんてぇ、報告受けて無ーいでーす。よいしょ。
ライゼ:そうか……なんか……。
ヴェークM:おい、ライゼ。
ライゼ:誰かに……名前を、呼ばれた気がしたんだよな。
ヴェル:夢なんじゃないですかぁ? だってぇ……もし誰か連れて行ってたとしたらぁ……君を回収した状況を鑑(かんが)みるとぉ……お亡くなりになってるかもしれませんよ。……ほら、これが現場の映像。
ライゼM:おびただしい量の瓦礫(がれき)が、博士が持つ端末の画面には映っていた。
ヴェル:ライゼ君の兵装に取り付けてある緊急信号を受信して、現場に回収機が駆けつけた際には、こーんな感じでぇ……君も隅っこで軽く埋もれてたんですよぉ?
ライゼ:あー……確かに、見覚えあんな……。この感じだと、確かに誰かいても助かって無さそうだけど……博士の口振りだと、死体は無かったんだろ?
ヴェル:人間のは無いですけどぉ……多分、敵だったんだろうなぁ、って義体(ぎたい)はありましたよ。
ライゼ:……ガミたん、か。
ヴェル:え? なんて?
ライゼ:いや、なんとなく覚えてんだけど……確か、ガミたんって名乗ってたんだよ、その義体(ぎたい)の機械人形(オートマタ)が。
ヴェル:へぇ……なんか変わった名前ですねぇ。
ライゼ:そうだな……ん? 何してんだ?
ヴェル:何ってぇ……メンテナンスでしょうが。まったく、兵装だけじゃなくて、機械化されてる部分ほとんど、総とっかえですよぉ……めんどぉ。
ライゼ:……待て、そんなレベルでブッ壊されたのか、俺。
ヴェル:そうなんじゃないですかぁ? てか、そうですよ、右腕なんてくっついてすら無かったですしぃ。
ライゼ:うわっ! 右腕ねぇじゃんか!
ヴェル:だから、いま付けようとしてるでしょおがぁ……。
ライゼ:あーあー……神経接続、痛えんだよなぁ……。
ヴェル:夜なべして、やぁっと、代替品が仕上がったんですからぁ……変に動かずじっとしててください。
ライゼ:はぁーあー……ん? なんかそれ、前と違うくないか?
ヴェル:そりゃ違いますよぉ。前のやつ、回収出来てないですし。
ライゼ:いや、そういうんじゃなくて……なんか、変な機械ついてるじゃねぇか。
ヴェル:え? あぁ……はい、付けますねぇ。
ライゼ:おいっ! 暴れんぞ!
ヴェル:うるっさいなぁ……仕方ないでしょー! 他のパーツの修理をしてたら、右腕全部新しく組むなんて出来なかったんですよぉ! お金も無いんですからぁ、使い回しになっちゃうんですよーだ! バーカバーカ!
ライゼ:バカって言うな! バカヴェ……。
ヴェークM:じゃあ、お前は超究極バカライゼだ。
ライゼ:……?
ヴェル:うぉーい、ライゼ君? いま、私のことバカって言いかけました? 言いましたよね、言いましたなぁ、絶対言ったぁ! こんなに献身的に整備してあげてるのにっ! 恩知らず、薄情者っ、クソバカッ!
ライゼ:……なぁ、博士。
ヴェル:なんですかぁ? 謝るなら、きちんと二十回は褒めて下さいよぉ?
ライゼ:「ヴェーク」って奴……どっかに居なかったか?
ヴェル:……なんですかぁ、それ。私に名前が似てますけどぉ……ライゼ君の傭兵団の新入りとかだったら、私知らないですよぉ。
ライゼ:……そうか。
ヴェル:……で、誰なんですかぁ、それ?
ライゼ:いや……なんか、分かんねぇ。
ヴェル:なんですかそれ……やっぱり、夢の話なんじゃないですかぁ?
ライゼ:そうかもなぁ……なんでか……やたらと、口の悪い……。
ヴェークM:……お前は、何も気にするな
ライゼ:バカな親友が、いた気がしたんだ……。
ヴェル:……そうですか。ライゼ君……この右腕ですけど、使い回しなのでぇ……1つ、とある機構が付いてるんですよ。
ライゼ:……面倒なやつじゃないだろうな。
ヴェル:いやぁ、残念ながら違います。
ライゼ:残念がるな。
ヴェル:まっ、大した物じゃないんですけどぉ、外す程でもないんで、このまま使って下さい。
ライゼ:どんな機構なんだよ。
ヴェル:ナビゲート機構ですよ。データ上にある道の案内はもちろん、魔力検知とか周囲の環境データを汲み取ってぇ、異常値をアラートすることも可能です。
ライゼ:いや、意外と有能じゃねえか。
ヴェル:でも、ライゼ君には微妙でしょう?
ライゼ:あー、そうだなぁ。俺だと戦闘じゃ使わなそうだ。なんかもっと……頭脳派、みたいな奴なら……。
ヴェル:でぇ、これに。ライゼ君がいつもやってるように、起動時の名前を、さっき付けたのでぇ、活用して下さいね。
ライゼ:あ、あぁ……分かった。どんな名前だ?
ヴェル:えぇ……「共に道を行く者」と言う意味で……『道導べ』(ヴェーク・ライター)、です。
〜〜〜〜〜〜
*【Lug】読み:ルーク 意味:嘘、欺瞞
バルバトス:あ″ぁー、それでぇ……そっちは、ひと段落って訳かぁ……ギァギァギァ。しかしぃ……すげぇ、恨まれるようなことばっかしやがんなぁ……側(はた)から見てりゃあ面白いけどよぉ。……あ″ぁー、こっちも首尾(しゅび)は良好だ……「新しい」ガミジンも、問題無く受け入れられてるよぉ……ギァギァギァ。んじゃあ……次のタイミングが来たらぁ……また、よろしく頼むぜぇ……博士。通信、終了。
〜〜〜〜〜〜
END
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