『ハロウィンにはリムジンで』 作:三嵩松生
【CHARACTER】
母:ハロウィンに子供に会いに行く母
子:母に先立たれ、拾われた先でこき使われている
イカ子:イカのような見た目のイカ、金持ち
飼い主:子の飼い主、口調は横柄だが正論
リムジン運転手:普段は礼儀正しいが、怒ると怖い、ハンドルを握っても怖い
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【STORY】
飼い主:おい。おい!
子:は、はいっ
飼い主:呼ばれたら一度で返事をしろ!
子:はい、ごめんなさい
飼い主:いいか?別に呼ばれたらすぐに来いとは言っていない、そこのところよく覚えておけ!
子:ひええええ、はいいいいい
飼い主:呼ばれたらどこにいても大きな声で返事!何度言ったらわかる!
子:で、でも、すぐにご主人のところに来ないとまた怒るじゃないですか・・・
飼い主:待たされるのは嫌いなんだよ!
子:ほらぁ
飼い主:だけどな!返事があってから待たされるのと返事がないのに待たされるのじゃ、待つ気分も天と地の差なんだよ!わかんねえか?あぁ?
子:天なら怒鳴らなくてもいいじゃないですか
飼い主:(かぶせて)あぁ!?
子:はいいい、ごめんなさいいい
飼い主:ったくよぉ・・・
子:で、なんですか?
飼い主:今日の飯は
子:作ります
飼い主:そうじゃねえ
子:あ、えーっと、お作りさせていただきます
飼い主:そういうことじゃねえ
子:え?え?
飼い主:今日の飯は
子:つ、作ってやらあ!
飼い主:・・・
子:・・・えへへ
飼い主:・・・
子:・・・えっと
飼い主:・・・なんだって聞いてんだボケェ!
子:なんで怒鳴るのぉぉぉ
飼い主:「飯は」の後には「なんだ」が隠れてるってのが暗黙の了解なんだよ!ガキでも使う文法だ!作ろうが出前だろうが外食だろうがなんでもいいんだから、メニューやら食いたいもんくらい考えて答えろやボケが!
子:ごめんなさいいいい
飼い主:それになあ!お作りさせていただきますってなんだカスが!一発変換できねえ時点で正しくねえんだよ!作らせていただきます、だこのカス!
子:敬語とか尊敬語とか謙譲語とか難しいんですよおおお
飼い主:美しい日本語でも読んどけ!
子:ふぁい・・・
飼い主:読み終わったら、俺の着替えを出しとけよ
子:着替え?
飼い主:ハロウィンだからな、変化(へんげ)した時にこの服じゃ破れちまう
子:ああ、ご主人はハロウィン限定で変化する狼男種でしたっけね
飼い主:おう、おかげでお前ら怪物どもに襲われんで済むわ
子:怪物だなんて・・・この愛らしい姿を見てよく言えますね
飼い主:人間を食う時点で愛らしくもなんともねえわ
子:人間だから食うんじゃないですよ、邪(よこしま)な人間を選別して襲うんですよ、しかもハロウィン限定で!
飼い主:最近じゃ、人型の怪物でも襲うじゃねえか
子:それは・・・一部の良くない輩の仕業ですから・・・
飼い主:あ、あー、いや、なんだ、その
子:だいたい、ご主人だって怪物ならハロウィンは悪人狩りに参加してくださいよ
飼い主:そ、そんなん、個々の自由だろうが
子:ご近所付き合いも大切なのに
飼い主:お前ら人食怪物の食糧確保の祭りだろうが、人用の飯で生きていける種族には意味がねえんだよ
子:あー、それは偏見ですよー、怪物種差別禁止ー
飼い主:うるせえな!だいたい、人間なんてまずくて食えやしねえわ
子:好き嫌いはだめですよ
飼い主:やかましい!
場転
イカ子:ごめんくださいな
母:えっと、これとこれ・・・ああ、これも入れておこうかしら
イカ子:お忙しいかしら?
母:あー!こんなところにあったわ、小指の先のピクルス!まだいけるかしら
イカ子:あの
母:ちょっとピクルス液が変色してるけど・・・いいわよね、食べ盛りだし!
イカ子:やめた方がいいと思いますわよ
母:それからっと、あれ?あれはどこかしら・・・
イカ子:てぃっ
母:ひゃっ!いやん、生臭い!
イカ子:それ、結構な悪口
母:あら、イカのイカ子さん、こんにちは
イカ子:こんにちは
母:イカ子さんの足だったのねぇ、どうりで当たったところがゲソ臭いわ
イカ子:イカですもの
母:「思春期」って名前の香水があったらこんな感じかしらね
イカ子:やめて、リアルに想像されてしまうじゃない
母:そうね、じゃあ「童貞の部屋」とか、どうかしら
イカ子:(かぶせて)もういいですわ!・・・準備はいかがかしら、と思って
母:え?あ、えっと、あはははは
イカ子:突然どうされまして?
母:あー、いえなんでも・・・準備はええ、この通り
イカ子:まあ・・・まあ、ずいぶんとお持ちになるのね
母:なんせ初めてなんですもの、渡したいものがたくさんあって
イカ子:次もありますのに、一気にお持ちにならなくても
母:そうなんですけどね、なんとなく落ち着かなくて
イカ子:そうですか
母:あ!これも・・・懐かしいわ
イカ子:なあに?絵本?
母:ええ、うちの子、この本が大好きで
イカ子:【ランタンにともし火を】
母:毎日のように読み聞かせてたのよ
イカ子:へえ、そうなの・・・あら、この物語
母:そうなの、私がこうなった原因なのよ
イカ子:まあそれは・・・そんなもの、いつまでも大切にとっておくなんてどうかと思うわよ
母:そうなんだけどね、やっぱり思い出があるから捨てられなくて
イカ子:そう・・・親心って複雑ね
母:本当、困っちゃうわ
運転手:おイカ野郎様
イカ子:あら、待たせて申し訳ないわね・・・今なんて?
運転手:お嬢様、と申し上げました
イカ子:そう?聞き間違いかしら
運転手:お車のご用意ができております
イカ子:ありがとう、ねえ、今年はこれで行こうと思うのですけど、いかがかしら?
母:まあ!・・・イカ子さんがいかがっていうと笑うべきかどうか悩むわね
運転手:はい、くそつまらないギャグのおつもりかしら、と
母:先ほど間違えてしまったから、今度こそ笑うべきかしら
運転手:おそらく、今は笑うところではない、と思われます
母:そうなのね!まあすごい!リムジンじゃないの!
イカ子:え、ええ、どうかしら
母:すごいすごい、初めて見たわ!大きいのねぇ
運転手:中もゆったりとお過ごしいただける、最高級仕様でございます
母:やだぁ、本当に乗っていいのかしら
イカ子:もちろん、せっかくのハロウィンですし、ご一緒しましょう
母:年に一度ですものねぇ、月に一回くらいあればいいのに
イカ子:そんなにあったら、人間が根こそぎいなくなってしまうわよ
母:それはそうね、でも年一回の悪人狩りじゃあ食料確保も充分にできなくて
イカ子:ハロウィンおばけ法案が適用される種族には辛いものがありますわね
母:イカ子さんは除外種でしたっけ?
イカ子:海に人間は住んでいませんからね、年間の人間遭遇率が低いので、免除なんですわ
母:羨ましいわぁ、毎日パーティできますわね
イカ子:そこまでは・・・
母:ああ、茹でたむね肉のサラダにもものロースト、三角筋のステーキは絶品でした・・・生絞りヘモグロサワーにデザートの脳プリン・・・神経の素揚げがカリカリでいいアクセントになるの・・・
イカ子:まあ、おいしそう!私なんて活造りしか食べられませんでしたわ
母:あの子に、もう一度食べさせてあげたいわ
イカ子:ぜひお作りになって!食材は厳選いたしましょう
母:若い肉が手に入るといいのだけど
イカ子:あなたの見た目なら、お若い方の方が寄ってくるんじゃありません?
母:そうかしら?
イカ子:ええ!かわいらしいもの!
母:そう?いやん、そうかしらね!そうよね、見た目からしてイカでしかないイカ子さんに比べれば!
運転手:差は明らかですね
イカ子:え、ええ、まあ、ね
場転
子:♪フンフン
飼い主:なんだそりゃ
子:え?ジャックオーランタンです
飼い主:なんで作ってるんだ?
子:ハロウィンですから!
飼い主:そいつは人間の魔除けだろ、なんでうちに飾るんだ
子:えー?だってご主人は見た目人間ですし、しかも見た目からして良い人間ではないですし
飼い主:人間じゃねえ、狼男だ
子:でもでも、良くない怪物に襲われちゃうかもですし
飼い主:ハロウィンには狼になるって言ってんだろ
子:でもでもでも、二本足で立って歩いて、服も来ちゃいますよね?帽子とか被ったら、後ろからだと人間みたいに見えますし
飼い主:被らなきゃいいだろうが
子:でもでもでもでも、万が一ってこともありますから、念のため魔除けの念を込めて飾ってもいいかなって思うんです!
飼い主:・・・
子:♪フンフン
飼い主:そんなん飾ったら、人間の家だと思われねえか?
子:ぎっくぅ!・・・そそそそんなこととととあありませんですしょう!・・・♪フンフン
飼い主:それが狙いかああああ!
子:ひえええええ
飼い主:却下だ却下!
子:ええええ!じゃあ、じゃあ、こっそり!こっそり置いとくだけでもいいです!
飼い主:うるせえ!ダメだダメだ!
子:そんなあ・・・せっかく作ったのに・・・
飼い主:煮て食っちまえ、どうせカブなんだからよ!おい飯は!
子:はあい・・・
場転
運転手:これで、全部でしょうか
母:ええ、ごめんなさいね、積んでもらってありがとうございます
運転手:いいえ、仕事ですのでお気になさらず
イカ子:さ、お乗りになって
運転手:頭をぶつけないよう、お気を付けください
母:まあ、ドアを開けてもらうなんて初めてだわ
イカ子:ほら、座って座って
母:お邪魔します
イカ子:飲み物もご用意しましたわ、冷凍血液ならありますからサワーも作れますわよ
母:あら、嬉しい
運転手:ドアをお閉めいたします
イカ子:ええ
母:素敵ねぇ、車の中にシャンデリアなんて初めて見たわ
イカ子:小さくてお恥ずかしいわ
母:それに車高もすごく高いのね
運転手:お嬢様がゆったり座れるサイズにあつらえておりますので
母:ああ、なるほど
イカ子:ごめんなさいね、全長20mなものだから
母:いいえ、とっても素敵!こっちこそ3頭身で毛むくじゃらなんて、お恥ずかしいわ
イカ子:それがかわいらしいんじゃないの!羨ましいわ
運転手:本当に、お嬢様もそんな外見なら、この車もイカ臭くはなりませんのに
イカ子:なにか言って?
運転手:いいえ、何も
母:(鼻をつまんで)そんな、臭いなんて全然気になりませんよぉ
イカ子:・・・泣きますわよ
運転手:あ、脱臭機のスイッチを忘れておりました、気休め程度ですが
母:(鼻をつまんで)まあ、なんて至れり尽くせり!
イカ子:早く出して頂戴!
運転手:はい
イカ子:あ!大変!おつまみを忘れましたわ!
母:あら、気にしなくていいわよ
イカ子:でも
母:簡単なものですけど、少し持ってきたから、良ければご一緒にどうぞ
イカ子:まあ、嬉しいわ
運転手:お嬢様は自分食ってればいいだろうが
母:え?
イカ子:ああ、大丈夫ですわ、いつものことなので
運転手:これぞ究極の自給自足ってな!
母:ええ?
イカ子:早く出しなさい
運転手:言われなくても全開で行くぜ!
母:えええええ!?
イカ子:うちの、ハンドル握ると性格変わっちゃうタイプなんです
母:変わりすぎでしょう
イカ子:でも安全運転ですから大丈夫ですわ
母:ええー・・・
イカ子:イカゲソいかが?
場転
子:あのー、ご主人
飼い主:なんだ
子:お願いがあるんですけど
飼い主:あ?
子:ハロウィンの夜、パーティがしたいです
飼い主:・・・すりゃいいだろ
子:・・・え?
飼い主:勝手にすりゃいいだろっての
子:え?い、いいんですか!?
飼い主:年に一度だしな、お前らみたいな怪物には特別なんだろ?
子:え?なに?なんかおかしい!
飼い主:あ?
子:違う違う、こんなのご主人じゃない!
飼い主:あのなあ
子:だって横柄でうるさくてわがままでバカなのがご主人じゃないですか!え?なに?怖いんですけど!
飼い主:うるぜえな!だったら禁止するぞ、パーティ禁止!
子:やだ!
飼い主:だったら大人しくやっときゃいいだろ!
子:え・・・いいの?本当に?
飼い主:ちゃんと片付けるならな!お前らのバカ騒ぎの後は血だらけなんだから
子:・・・なんで?
飼い主:はあ?
子:なんでいいの?ご主人はハロウィンしないんでしょ?
飼い主:・・・来るんだろ、どうせ
子:え?
飼い主:来るんだろ?お前の母親!ったく、めんどくせえもん押し付けやがって
子:・・・わかんない、けど来たらいいなって
飼い主:ったく、なんでハロウィンにジャックの扮装なんかしやがったんだ、バカが
子:それは・・・お願い、しちゃったから
飼い主:あ?
子:良い人間は、ハロウィンにいろんな格好をして怪物の真似をするでしょ?本当に小さい頃はこのままでも混ざれて楽しかった
飼い主:ああ、まあな、あちらさんにとってもお祭りだからな
子:同じようなことしてみたくて、お母さんに大好きな絵本にでてくる格好して!ってお願いしたの
飼い主:ああ、それでか
子:うん・・・お母さん、ちゃんと変身してくれて、嬉しくてそれで
飼い主:狩りにそのまま行ったんだろ?
子:・・・
飼い主:うまく化けすぎたんだ、それだけだ
子:・・・お母さん、来るかな
飼い主:来るだろうよ
子:恨んでないかな
飼い主:はあ?
子:だって、お願いしちゃったから・・・だから・・・
飼い主:ばああああか!来るに決まってんだろ!
子:・・・
飼い主:賭けてもいい!来る!来なかったら、お前を主人にしてやらあ!
子:・・・絶対?
飼い主:絶対そんなことにならねえからな!
子:・・・約束する?
飼い主:ああ!
子:・・・うん
飼い主:ったく、さっさと飯にしろ!
子:はい!
場転
母:はあ
イカ子:どうしたの?
母:いえね、ちょっと思い出しちゃって
イカ子:何を?
母:あの子に・・・とてもひどい別れ方をしちゃったなって
イカ子:それは・・・まあ、確かにそうですわね
母:喜んでくれたから私はそれで充分なんだけど、あの子にとっては良い思い出にはならないでしょう?
イカ子:仕方ないわ、予想もできないことだったのですから
母:年々治安も悪くなっていってたから、私が少し考えなきゃいけなかったんだけど・・・
イカ子:地上の怪物界にも治安ってあったのね
母:海にはないの?
イカ子:ないわけではないけれど、なにせ広いもの
母:そうか、そうよね
イカ子:仲間はいたけれど、みんなで何かってことはない世界ですわ
母:それも寂しいわね
イカ子:そうなのかしらね
母:ああ、あの時もう少し気を付けていれば・・・
イカ子:過去はもう戻せないもの、こうして会えるだけでも、怪物で良かったと思いましょう
母:・・・そうね、人間ではこうはいかないものね
イカ子:そうですわ
運転手:おい、イカ野郎!
イカ子:なあに?って、なんて言いまして!?
運転手:窓の外にいる奴、見てみろ
イカ子:外?ああああああ!
母:何?だれ?
イカ子:あいつ・・・私をダイオウイカと間違えて吊り上げやがった野郎ですわ!
母:ええ!?
運転手:人間風情がこんなところに迷い込んでやがる、ざまあみやがれだ
イカ子:ハロウィンを待たずに死にさらしやがりましたのね!ああ口惜しい!
母:イカ子さん、復讐するって言ってたのに、残念ね
イカ子:ちょっと止めなさい!
運転手:無理、この後はハロウィン渋滞が起きるからな、巻き込まれたら間に合わなくなる
イカ子:きいいいいいい、帰りに引きずり込んで食ってやりますわ!
母:あ、じゃあ私、お礼に調理しますね!
イカ子:お願いしますわ!
母:ええ、ってずいぶん車が増えてきたわね
イカ子:そろそろ日が落ちたころですもの、みんな出て来始めましたのよ
運転手:おっと!
母:きゃあ
イカ子:きゃっ!・・・どうしたの、急にハンドル切るなんて
運転手:ちっ、なんだこいつ、無理な割込みしやがって!
イカ子:まだ急ぐほどの時間でもないでしょうに、大丈夫ですか?
母:ええ、なんとも・・・ん?
イカ子:なにか?
母:あ、あ、ああああああ!
イカ子:ど、どうかなさいまして!?
母:ちょ、あれ、あの!
運転手:こういう乱暴な運転する奴は嫌いなんだよな
母:運転手さん!前の車を追ってください!
運転手:は?
母:あいつ!あいつなんですよ、私をこんな目に合わせた張本人!
運転手:なんだって!?
母:あいつが、あいつが私を・・・ジャックに変装した私を殺したんです!
場転
子:お待たせしました、ご飯です!
飼い主:おう・・・っておい、なんだこれ
子:ご飯です
飼い主:メニューは
子:ナポリタンってやつです
飼い主:ほう、ナポリタン
子:はい!
飼い主:ちゃんとレシピ通りに作ったのか?
子:えーっと、はい、だいたい!
飼い主:味見は?
子:しました!おいしかった!
飼い主:おいしかったか、そうか
子:はい!
飼い主:いいお返事してるんじゃねええええ!お前がおいしいってもんが食えるかバカが!
子:え?え?
飼い主:味覚が違うんだ!俺は人間用の飯がいいんだと何度言ったら覚える、このバカ野郎が!
子:ひいいい
飼い主:まともな食材を使え!人間の食材だ!
子:だってぇ、似てるからぁ
飼い主:ウインナーはウインナーにしかない味なんだよ!これなんだ!指だろ!指!しかも薬指!指輪は外しとけ!
子:どの指かなんて覚えてないですぅ
飼い主:しかもこのソース、何で作った!血だろ?どっか切ったら滴り落ちる真っ赤な液体!血液!
子:鮮度のいいやつが手に入ったんですよぉ
飼い主:ナポリタンにはケチャップなんだよ!ケチャップ!あればトマト缶も混ぜてもうまい!2対1くらいが好きだ!
子:それってレシピに載ってますか?
飼い主:うるせえ、俺の趣向だ覚えとけ!
子:はいいいい
飼い主:ウインナーならウインナーを買え!ケチャップならケチャップを買え!人間の金は渡してるだろ!
子:うえええん、似てるのにいいい
飼い主:見た目は似てても指は指!血は血なんだよ!ご丁寧に指は燻製にしやがって!似せにいってるじゃねえかこのバカ!
子:だって、ウインナーは燻製のやつが人気だっていうし・・・
飼い主:ウインナーと指は違うって言ってんだろうが!
子:ごめんなさいいいい
飼い主:ああああもおおおお!これは捨てとけ!
子:ええ!もったいないです!
飼い主:じゃあお前が食いやがれ!
子:喜んで!
運転手:ひゃっほー----い!
飼い主:あ!?
子:わあ!
母:(同時に)きゃああああ
イカ子:(同時に)いやああああ
子:(同時に)うわああああ
飼い主:(同時に)うおおおおお
運転手:ちょっと駐車失敗したな、まあいいか
飼い主:良くねえ!壁に突っ込んでるじゃねえかよ!
運転手:うるせえな、こんなところに壁があるから悪いんだろうが!
飼い主:ああ?てめえの目は節穴か?距離もわかんねえのかよ!
運転手:はあ?簡単に壊れるような壁を作りやがったのはそっちだろ!ガタガタいう前に、車くらい跳ね返すもんにしとけやクソが!
飼い主:人んち破壊しといてなんだその言い草は!
運転手:やんのかコラァ!
イカ子:やめなさい、ほら、ハンドル離して
飼い主:しゃしゃってんじゃねえ!
運転手:到着でございます
イカ子:お疲れ様
飼い主:ああ!?
運転手:少し、目測を誤りました
飼い主:あ、あん?
イカ子:これは大変な失礼を、うちの運転手が申し訳ございません
飼い主:お、お?
イカ子:壁の修理についてはこちらで手配させていただきますので、ここはご容赦ください
飼い主:あ?いや、直します、はいそうですかとはいかねえだろうが
イカ子:まあ、それでは慰謝料はいかほどでしょう
飼い主:いかほどって、ああ、イカだけにってか?くっだらねえことぬかしてんじゃねえぞ!
イカ子:はい?
運転手:ああ、まずいですね
飼い主:金がどうこう言う前にまずは謝罪だろうが、頭下げてすみませんでしたってのが道理だろうが、このイカ野郎!
イカ子:謝りましたわよね?
飼い主:てめえじゃねえ、運転手だ運転手!
運転手:これはこれは、大変、失礼いたしました
飼い主:今更なんだよ!言われてから下げる頭と、言われる前に下げる頭じゃ価値は雲泥の差なんだからな!
イカ子:ですから、慰謝料をと
飼い主:金もそんな簡単に出すんじゃねえ!金ってのは汗水たらして働いて手にするもんだからこそ価値があるんだからな!
イカ子:(かぶせて)ごちゃごちゃうるさいんですわよ!金は金!ほらほら、札束で殴ってやろうかでございますわよ!?ああ?
飼い主:はあ?そんなんで喜ぶわけねえだろ!
イカ子:(かぶせて)ほい
飼い主:いてっ・・・なにしやがる!
イカ子:(かぶせて)ほれ
飼い主:あだっ・・・てめえ・・・
イカ子:叩いた束は差し上げますわ
飼い主:え?
イカ子:もいっちょ
飼い主:あたっ・・・
※イカ子と飼い主は「ほれ」「あんっ」「えい」「もっと」みたいなやり取りをBGM的に続けてください※
母:あのー、ドアが開かないんですけどー
子:その声・・・
運転手:ああ、すみません、ちょうど壁に当たっておりますね、よいしょっと
母:あー、出れた出れた
運転手:お怪我は?
母:全くなんとも
運転手:安心しました
子:お母さん!
母:おっと
子:お母さん、お母さん!
母:ちょっと、そんなに強く抱き着いたら苦しいわ
子:お母さん!
母:ただいま
子:来てくれたんだね
母:当たり前でしょ、ハロウィンは死んだ怪物も幽霊も、悪魔だってこの世に来れる特別な日だもの
子:来てくれないかと、思った・・・うわあああん
母:ばかね、何言ってるの
飼い主:・・・おい
イカ子:邪魔するんじゃないのですわ、感動の再会ですのよ
飼い主:まだだ
運転手:まだ?
飼い主:まだハロウィンになってねえ!前夜だ、まだ日が変わってねえんだよ!
イカ子:そんなことは・・・まあ、大変
運転手:ああ、来る途中に少しスピードを上げ過ぎたからでしょうか
飼い主:ったく、何をそんなに急いでくる必要があるんだか
母:あの、ごめんなさい、私のせいなんです
飼い主:あんたの?
母:ええ、ハロウィンで帰る車の列に、私を殺したやつを見つけてしまってつい
運転手:どうしても捕まえてやりたくなってしまいました
母:いいえ、私が頼んだので
飼い主:なんだ、そういうことか
母:すみません、ご迷惑をおかけして
イカ子:でも、あなたを殺した相手も死んでいたなんて、驚きましたわね
母:ええ、本当に
飼い主:まあ、そういうこともあるだろうな
運転手:おかげで八つ裂きにもできましたので、良かったですね
母:すっきりしたわぁ、二度も死ぬなんてあいつも思わなかったでしょうね
イカ子:可愛い姿なのに相手を引き裂く時の残酷さと言ったら、怪物は見た目じゃないんだなってしみじみ思いましたわ
母:内臓が引っかかって、ずるぅんって出てきたところで冷静になっちゃって、イカ子さんに恥ずかしいとこを見られちゃった
運転手:なかなか良い断末魔でしたね、ああ、魔除けに置いておきましょうか?
飼い主:いらねえ
子:お母さん
母:うん?
子:あのね、お母さんのね
飼い主:あ!おい!
子:お母さんのかたき討ちなんだけどね
飼い主:おい余計な・・・う、うあ、うああああああ
イカ子:あら、どうかされまして?
運転手:突然の大声は驚きますね
飼い主:はあ・・・はあ・・・
母:まあ、狼男さんが変身したということは、ハロウィンになったのね!
子:わあい、ハロウィンだ!お母さん、おかえり!
母:ただいま
運転手:お嬢様共々、お邪魔いたします
イカ子:今年は良い食材に出会えるかしら
母:たくさん狩れるといいわね、できれば若いの!
飼い主:おい
子:ご主人、パーティできる!できるよ!
飼い主:その前に・・・ここを何とかしやがれ!部屋中ぐっちゃぐちゃじゃねえか!
イカ子:あら、そうでしたわ
子:あーあ、ご主人のご飯もぐちゃぐちゃになっちゃった
飼い主:ふんっ!
イカ子:あいたっ!
飼い主:飯はこいつの足で我慢してやる、あぶればうまいからなイカゲソは
イカ子:なにするんですの!?それはゲソじゃなくて手ですわ!
飼い主:どっちでもいいわ!そんだけ手だか足だかがあるんだ、一本くらいなくても掃除はできるだろ
イカ子:きいいいいい
運転手:まずは、車を移動させますね
飼い主:ああ、頼むわ
運転手:さて・・・おらどけどけどけどけー!
飼い主:あああああ!なぎ倒して行くんじゃねえよ!なんだあいつ!
イカ子:ハンドルを握ると性格が変わるタイプの運転手ですわ
飼い主:・・・考えて雇えよ
子:あのね、お母さん
母:ん?どうしたの?
子:お母さんが死んじゃって、たまたま通りかかったご主人が引き取ってくれたでしょ?
母:そうだったわね、ご近所さんだけどごあいさつ程度のお付き合いなのに、無理を言ってしまって申し訳なかったわ
子:あのあとね
母:うん
子:ご主人、一生懸命追いかけて、あいつの喉を食いちぎってくれたんだよ
母:え?
子:ご主人がね、仇を取ってくれたんだ
母:まあ・・・なんてこと・・・
子:ハロウィンになったら会えるから、その時に笑ってやりたいだろって
母:・・・うん
子:憎い相手がいたまんまじゃ笑えないからって、普段は絶対怪物とか人間とか食べないのに、殺したやつ全部食べてくれたんだ
母:・・・うん、うん
子:約束したんだ、笑って挨拶するって
母:そう、そうなのね
子:だからお母さん!
母:うん
子:(同時に)ハッピーハロウィーン!
母:(同時に)ハッピーハロウィン
おしまい
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