『リーベルの戦闘訓練』 作:天びん。

Aguhont Story Record 外伝

『リーベルの戦闘訓練』

作:天びん。

20分


【登場人物】


アリーンシャ:獣人(クォーター)の女の子、元気で活発。無謀で図太く振る舞うが、少々臆病な一面も。戦闘ではバルナで購入した両手剣・グランルナを扱う。社会福祉として消し飛ばしてしまった森の修復をするため、リーベルに留まった。

エリス:リーベルの女性皇族、白銀の長髪を縛ってポニーテールにしている。常識的だが、たまに何処か抜けている。

シャトン:獣人の女性で弓の名手。口数が少ないが情に厚く親切。言葉が足りずよく勘違いされる。現在はリーベルに住んでいる。

クリオ:性別不問、獣人、各地の伝承を調べるのが趣味で、大体宿屋や飲み屋でバイトしながら情報を集めて各地を転々としている。現在はリーベルに戻ってきている。


【本編】

アリーンシャ:これは、Aguhont Story Recode 14th Episode の、ラポムさんが帰国したすぐ後のお話…


エリス:…なるほど。アリーンシャの両手剣は風の属性武器だったか。

シャトン:ええ…お陰で弓やボウガンが全く効かなかったわ。

クリオ:クリオもシャトンも遠距離要員だからね…ホントあの時はどうしたらいいか困っちゃったよ。

アリーンシャ:私のグランルナ、スゴいでしょ!!(エッヘン)

アリーンシャ:バルナの中心部でお買い物したときに市場のすみっこに出てたお店で見つけたんだよ~!

シャトン:バルナで?ひょっとしてアリーンシャはバルナ出身?

アリーンシャ:そうだよ!とにかくこの子使いたくてバルナ出てみたんだけどさぁ、特に目的決めずに色々行ってたらタングリスニに着いちゃったんだよね。

アリーンシャ:私寒いの苦手だからすっごい困っちゃったよw

エリス:ふむ…。アリーンシャ、グランルナを少し借りても構わないか?

アリーンシャ:良いですよ、どうぞ。


アリーンシャ:エリスがグランルナを装備し、軽く剣を振るうとルナが淡く光り、風の盾が現れる。


エリス:なるほど、これが…

アリーンシャ:わぁ!エリス様も『疾風一閃』出せるんですね!

エリス:あぁ、私は普段支援職だが前衛職も出来るよ。剣や体術の手解きも受けたことがあってね。

クリオ:でも、今回みたいに遠距離要員だけだと、取れる行動も限られるよね。

エリス:…よし。アリーンシャ、こちらを返すから少し模擬戦をしてくれないか?

アリーンシャ:模擬戦?!私と…エリス様でですか?!


アリーンシャ:驚く私にエリスは笑顔で首を振る。


エリス:いや、私は審判だ。シャトンもクリオもまた同じ様な状況に陥った際、打破することが出来なくてはな。

クリオ:えー!今回だってかなり苦戦したのにぃ…。

シャトン:…エリスには打開策があるのね、私達が今回打った手以外に。

エリス:あぁ。君達にも十分対処可能な案がね。リーベルは軍所属の民が少ないから、市民の皆にもある程度は対処できるようにしてもらわないと。

クリオ:…よーし!クリオももう少し考えてみる!!

エリス:決まりだな。


アリーンシャ:森の空き地でグランルナを携える私とシャトン、クリオのペアがエリスを中心に向き合う。


エリス:では、これより模擬戦を行う!

エリス:今回は相手を傷付けるのではなく、無力化することを念頭に戦うこと。

アリーンシャ:はーい!

クリオ:分かったぁ!

シャトン:…。


アリーンシャ:シャトンは無言のまま頷く。

アリーンシャ:エリスはそれを確認すると右手を頭上に掲げた。


エリス:では―はじめ!!

アリーンシャ:いっくよー!

アリーンシャ:『ルナバースト』!!おりゃおりゃおりゃおりゃ~!!


アリーンシャ:そう言って私がグランルナをぶん回すと、再び剣が淡く光りだした。


エリス:なるほど、アリーンシャはもう少し基礎練習を増やした方がいいかもな。

アリーンシャ:えぇー!そんなぁ…。

エリス:その方が無駄な動きはなくなり、一挙手一投足が映える。

クリオ:一応再現できてるか確認するためにボウガン撃ってみるね。

シャトン:ええ、お願い。


クリオ:クリオが狙いを定めてボウガンを撃つ、が―


アリーンシャ:なんの!『疾風一閃』!!


クリオ:クリオの放った矢はアリーンシャまで届くことなく、風の盾に弾かれて地面に転がった。


アリーンシャ:―よしっ!

クリオ:さっきと一緒だね。

エリス:ふむ…想像以上にこの盾は厄介だな。

エリス:…さて、君達はどうする?

シャトン:弓矢は使えない…クリオが使えるのは牙と尻尾と属性付与…私の利点は聴覚と嗅覚のみ…

クリオ:…!シャトン、ちょっと思い付いたことあるからやってみてもいいかな?それまで君にはアリーンシャの注意を引いてもらえると助かるよ。

シャトン:分かったわ。


クリオ:シャトンが小刻みに動きながらアリーンシャの注意を引き付けている間に、クリオは森に自生している木の実を探し始めた。


クリオ:確か…これとこれを擦って潰して…。

クリオ:出来た!

クリオ:シャトン、いっくよー!

アリーンシャ:え?何?!


クリオ:アリーンシャが振り向くと同時に、再びボウガンの矢を放つ。

クリオ:風の盾に当たると、矢はさっき同様地面に転がるが、辺りに粉が大量に舞った。


アリーンシャ:わわっ?!何この粉…!

シャトン:…!

アリーンシャ:あ、あれ…?

アリーンシャ:身体がシビビビビ…!

クリオ:題して、『痺れ粉ボウガン』!材料は森で調達可能だし、無力化するなら悪くない手だと思うんだけど…!

エリス:確かに、案は悪くないね。材料が現地調達可能な点もいい。

クリオ:やったぁ!!

エリス:―だが、この状態はまずいんじゃないか?

クリオ:え?

シャトン:…クリオ…?


クリオ:見るとアリーンシャから少し離れた場所でシャトンも地面に突っ伏している。

クリオ:どうやら痺れ粉を吸ってしまったようだ。


クリオ:シャトン!大丈夫?!

エリス:痺れを取ろう。

エリス:癒せ、癒せ―、優しく、健やかに…ひとえに身体を満たし給え―神の息吹。


クリオ:神々しい光がシャトンとアリーンシャを取り巻くと、2人はゆっくり起き上がった。


アリーンシャ:ありがとう。痺れが取れたわ。

シャトン:クリオ…?(ちょっと怒った感じでゆっくり目に)

クリオ:い…いいい、一番皆が怪我しないで穏便に話せるようになるかなぁ?とクリオは思ったんだけども…(プルプル)


クリオ:ヤバイよぉ…!シャトン無表情だけど、あの目は絶対怒ってるぅ…!!

クリオ:後でメッチャ怒られる気がするよ?!


エリス:発想は悪くないが、風の属性武器である点をもう少し考慮すべきだったね。

エリス:今回のように粉を使用すると拡散されて味方にも被害を及ぼす場合もある、いい教訓になったな。

クリオ:むむぅ…

シャトン:…エリス。

シャトン:本当に遠距離要員の私達でもアリーンシャを無力化する策はあるの?

エリス:あぁ。

クリオ:エリスー、ヒントとかないの?ヒント欲しいなぁ。


クリオ:クリオは尻尾をパタリパタリとさせながらエリスに問いかける。

クリオ:流石にノーヒントじゃ分かんないよぉ!


エリス:…そうだな。

エリス:2人の得意なことをよく思い出してごらん、それぞれの長所を活かすんだ。

クリオ:長所…

シャトン:…クリオ。

シャトン:矢に属性付与することは可能?

クリオ:出来るよ?

シャトン:じゃあ、水の属性付与をお願い。それをあの風の障壁に向かって撃ってちょうだい。

クリオ:おっけぃ!


シャトン:クリオが矢に水属性を付与すると、私はアリーンシャの方に向かって構える。


クリオ:よし、いくよ~!

クリオ:…そぉーれっ!!

アリーンシャ:なんの!『疾風一閃』!!


シャトン:クリオが放った矢が風の盾に当たると、そこから白い靄(もや)が広がっていく。

シャトン:私は目を瞑ると、僅かな感覚を頼りに周りの気配を探った。


アリーンシャ:え?真っ白で何も見えない…!

アリーンシャ:あれ?…あれぇ??

シャトン:…そこか!


シャトン:アリーンシャの声である程度の位置を把握した私は、アリーンシャの不意を突いて靄の中から飛び出す。


アリーンシャ:ちょ…!

シャトン:はぁっ!!


シャトン:私の手刀によってアリーンシャの手からグランルナが落ちる。

シャトン:そこからは簡単だ。私はアリーンシャの手を背中側に捻りあげると、組み敷いて地面に倒した。


アリーンシャ:いたたたた!

エリス:…うむ、勝負あり。

エリス:シャトン、離してあげなさい。


シャトン:私がアリーンシャの手を引いて立たせると、クリオがグランルナを抱えて寄ってくる。


クリオ:すごいや、シャトン!

クリオ:アリーンシャもお疲れ様!はい、これ。

アリーンシャ:ありがとう、クリオ。

エリス:お互いの長所を活かした見事な戦い方だったぞ。

エリス:クリオはボウガンの扱いに長けているだけでなく、属性付与も可能だ。

エリス:また、シャトンは獣人の中でも特に聴力や嗅覚に優れている。

シャトン:なるほど…クリオの属性付与武器で視界を奪うなどして相手の身動きが取れなくなった際に私がわずかな音や匂いで相手に近付き無力化…

シャトン:確かに、エリスが考えそうな案だわ。

エリス:少しばかり指摘を加えるなら、アリーンシャは視界を奪われた際声をあげて動きすぎた。この場合、敵に自分の居場所を教える事になってしまうから、動かず息を殺して相手の動きを待て。神経を研ぎ澄ませれば、アリーンシャにも相手の位置が分かるだろう。

アリーンシャ:おぉ!なんかカッコいいかも!!目を瞑っていても相手の位置が分かる奴ですね!!

エリス:あぁ。私も時々シャトン達に手解きしてもらっているのだが、『心眼』という技能らしい。

アリーンシャ:…『心眼』かぁ。

エリス:使えるようになると何かと便利だと思うよ。

アリーンシャ:はい!!


エリス:クリオは今回矢に水属性を付与したね?それは何故だい?

クリオ:えっと、シャトンの指示だったっていうのもあるけど、霧をイメージしたら水かなって。

エリス:なるほど。水の他に、火属性や雷属性なども有効だ。

エリス:火属性を使えば、一瞬で周囲に雲を産み出すことも出来るし、雷属性であれば小規模な爆発を起こすことも可能だろう。

クリオ:ば、爆発??

エリス:ただ、小規模とはいえ、爆発は爆発だ。使うなら色々と注意が必要だよ。今回であればシャトンとの連携や意思疏通だね。

エリス:逆にシャトンはアリーンシャを捉える前に声を出してしまったのが、いただけないな。

シャトン:ええ…こちらの居場所を知られて、相手に返り討ちにされる可能性があったものね。

エリス:そういうことだ。

エリス:とはいえ、今日は皆の実力が知られて良かったよ。これからも引き続き、リーベルの発展に励んでくれ。

クリオ:うんうん!これからも皆でリーベルを豊かにしていこうね!!

シャトン:私も、軍に属していたから戦闘技術を教えたり防衛面でも役に立てるはず。

アリーンシャ:はーい!私ももっと基礎練習頑張る!!

エリス:私も皆のために出来ることは何でもしよう。