『宅配』 作:采

『宅配』

作:采


【CHARACTER】

ガンコナ―:ツッコミ。割と常識人。

シーオーク:天才とは往々にしてとんでもねぇことをサラッと言うものだと思う。

  

【STORY】



ガンコナー:

 おねぇさん!

 良かったら、この後お茶でもどう??

 この近くにコーヒーが美味しいカフェがあってーー

 え?カフェインアレルギーだから、無理??

 あ、ちょっ!それなら別に他のものも置いてるからっ!

 ……って、逃げられた……。

 まさかアレルギーを理由に断られるとは……。

 はぁぁ……連れないなぁ。

 さて……これで、本日6連敗か……。

 流石にちょっと一休みしたいところだけど……。

 チッ……ここも喫煙禁止かよ……。

 世知辛い世の中になったな……。

シーオーク:

 あれ?こんなとこで何してんの、ガンコナ―??

ガンコナ―:

 おぉ、シーオークか。

 ちょっとルーティンワークを……。

シーオーク:

 ナンパだね。

ガンコナ―:

 無粋な言い方するな。

 俺は、ただ目の保養に町行く美しい女性を見て癒されてただけだ。

シーオーク:

 だったら、声をかける必要ないんじゃない?

ガンコナ―:

 カワイイと思った女性をただ見てるだけで声をかけないなんて失礼だろう?

シーオーク:

 じゃぁ、ナンパだね。

ガンコナ―:

 ……広義の意味では、そうとも言う。

シーオーク:

 いや、確実にそうとしか言えないよね。

ガンコナ―:

 ……で?

 お前こそ、何してるんだよ?

シーオーク:

 僕?

 僕は客引きしてたよ。

 正確に言うと、客引きしてたら、客引き行為は禁止ですって警察に怒られてたよ。

ガンコナ―:

 怒られただけで済んで良かったな。

シーオーク:

 うん、常習だからね。

ガンコナ―:

 懲りろよ。

シーオーク:

 客引きは趣味と実益を兼ねてるからね。

 ガンコナ―のナンパ同様、そう簡単には懲りないよ。

ガンコナ―:

 そ、そうか……。

 それで、どこの客引きしてたんだ?

シーオーク:

 どこって?

ガンコナ―:

 だから、どこの店の客引きをしてたんだっ?

シーオーク:

 目についたところ。

ガンコナ―:

 は?

シーオーク:

 だから、目についたところを手当たり次第に。

ガンコナ―:

 どゆこと?

シーオーク:

 街歩いてて、「あ、この人今飲食店探してそう」って思うぢゃん?

ガンコナ―:

 いや、思わねぇよ?

シーオーク:

 目の前に手頃な飲食店があるとするぢゃん?

 ……客引きするぢゃん。

ガンコナ―:

 ぢゃん。じゃないのよ。

 普通しないって。

 警察に怒られる前に、お店の人から怒られろ。

シーオーク:

 いや、それがそんなこともない。

 ちょっと前に「謎の客引き」って動画撮られたのがSNSでバズって……。

ガンコナ―:

 囃し立てられてるじゃん!

シーオーク:

 ……シャッター商店街が一つ復活した。

ガンコナ―:

 すっごい、影響力だな!

 そりゃ、お店の人には怒られないわ。

シーオーク:

 そうなんだよ。

 むしろ感謝されてるくらいなんだよ。

 でもさ……客引きが迷惑行為として禁止されていってるからさ。

 大々的に謝礼とかをもらうわけにもいかなくて。

 お金にならないんだよ。

ガンコナ―:

 はぁん……そりゃぁ報われねぇな。

シーオーク:

 うん。客引きは僕の天職だと思うんだけどなぁ……。

ガンコナ―:

 そもそも妖精雇ってくれるとこって少ないからなぁ。

シーオーク:

 そう。

 だからね……商売を始めたんだよ。

ガンコナ―:

 商売?

 起業したってことか??

シーオーク:

 うん。

 やっぱり、色々しがらみがあるからね、妖精と人間じゃ。

ガンコナ―:

 そもそもの話、じゃぁ、人間の世界で働くなって話だけどな。

 ーーそれで、なんの会社なんだ??

シーオーク:

 宅配だよ。

 ちょっと前に社会情勢的に大流行した食事のデリバリーが中心。

ガンコナ―:

 んー、目の付け所は悪くないと思うけど、ちょっと出遅れた感ないか?

シーオーク:

 それは無きにしも非ずだね。

 だから、高齢者の人たちや療養中の人、郊外に住んでて買い物が不便な人向けに代わりにおつかいをするなんていうこともやってる。

ガンコナ―:

 ほぉ、なるほど。

 そういう宅配事業も複合してるってわけか。

シーオーク:

 うん。

 従業員はみんな妖精仲間だから、特性を活かして働いてるよ。

 デュラハンやプーカは馬で配達できるから、車の入れない山道とかも対応できるからね。

 郊外になると、都会でも自然が多いとこもあるから。

 人間に比べれば妖精のほうが夜も強いから、遅い時間まで対応も出来るし。

ガンコナ―:

 へぇ、あいつらも一緒に働いてるのか。

シーオーク:

 そう、特段声かけたわけではないんだけどね。

 多かれ少なかれ、みんな仕事に対して悩みを抱えてたんじゃないかなぁ。

 自然とね。

 まぁ、それも功を奏して、妖精が宅配してくれるっていうのも、良い付加価値になってる。

ガンコナ―:

 ……じゃぁ、俺も一緒に働かせてもらおうかな?

シーオーク:

 もちろん、いいよ。

 細かい就業規則も設けてないから、ガチガチな感じじゃないし、気楽に働いてもらえると思うよ。

ガンコナ―:

 うんうん、流石客引きが天職っていうだけあるわ。

 求人って客引きとはちょっと目線違うのかもしれないけど、シーオークの説明聞いてるとその仕事がすっごい魅力的に聞こえるよ。

シーオーク:

 そうかな……なんか、そう言ってもらえると嬉しいよ。

ガンコナ―:

 それで、なんていう会社なんだ?

シーオーク:

 あぁ、まだ社名言ってなかったね。

 「妖精館」(ようせいかん)だよ。

ガンコナ―:

 なんでそっちいった?

 宅食って時点で、なんかしら文字ってくるかなぁとは薄々思ってたけど。

シーオーク:

 え?何が??

 本当は「妖精の館」(ようせいのやかた)にしようかと思ったんだけど、それだと語呂も悪いし、占いみたいになっちゃうだろ?

ガンコナ―:

 え??無自覚なの?

 ネタとしては、横文字のほうに寄って欲しかったわぁ。

シーオーク:

 横文字??

 あぁ、それだったら社名のロゴは横文字使ってるよ。

 漢字だけよりポップな感じになるし。

ガンコナ―:

 おー、なるほどなるほど!

 そっちで寄せてくるわけね。

シーオーク:

 「YO!SAY!!館」って書くんだけど……

ガンコナ―:

 全然寄らねぇなぁ!

 なんだ、「館って言え!」って!

シーオーク:

 え?ダメかなぁ??

ガンコナ―:

 いやぁ、ダメではないけどな。

 まぁ、こっちはこれから働かせてもらうって立場だし、客が増えていってるなら……。 

シーオーク:

 うん!

 お客さんはどんどん増えてるよ!

 妖精それぞれのサービスなんかもウケてる!

ガンコナ―:

 それぞれのサービス?

シーオーク:

 そう。

 例えば、グレムリンは必ずガムを渡してたり……

ガンコナ―:

 あぁ、なるほど!

 あいついっつもガム噛んでるしな。

 お口直し的な感じで喜ばれるかもな。

シーオーク:

 エサソンは何かしらのキノコを添えてる。

ガンコナ―:

 キノコ!?

 それはもらって嬉しいのか?

 せめて、まともな食べられるやつであることを祈るわ。

シーオーク:

 レプラコーンは、その場でオーダーメイドの靴を受注してる。

ガンコナ―:

 もう、それは新手の押し売りだよ。

シーオーク:

 そうかな?

 アフターサービスまでしっかりしてるって割と評判良いけど?

ガンコナ―:

 とんだアフターだな。

シーオーク:

 あぁ!それで言ったら、ケット・シーは宅配後30分モフモフ出来るっていうサービスをしてるよ。

ガンコナ―:

 それ、休憩してるだけだろ!?

シーオーク:

 まぁ、あくまでもサービスだからね。

 どれも、お客様が受けるかどうかを選択できるようにはなってるよ。

ガンコナ―:

 ふ、ふーん……そ、そうか。

 俺、ちょっとそこで働く自信なくなってきたわ。

シーオーク:

 え?そう??

 ガンコナーも妖精仲間なんだから、全然大丈夫だと思うけど??

ガンコナ―:

 いや、他の奴と比べてインパクトのあることができる気がしねぇ。

シーオーク:

 そんな心配しなくても大丈夫だと思うけどなぁ。

 あ!なんだったら、合法的に女の子に声かけられるし。

ガンコナ―:

 別に声かけること自体は違法じゃないけどな。

 余程過度でなければ。

シーオーク:

 リャナンシーも彼氏が3人増えたって喜んでたよ。

ガンコナ―:

 それは完全に職権乱用だよ。

 しかも3人って!

シーオーク:

 んー、でも、思わぬところで出会いがあったって、相手方も喜んでるみたいよ?

 レンタル彼女みたいなものかな。

ガンコナ―:

 いいのか、それで、経営者?

シーオーク:

 僕はいいと思うよ。多様性があって。

 それに、大体のことは妖精ってことで大目に見てもらえるから。

ガンコナ―:

 あー、ここにきて妖精ってことを前面に出していくわけね。

 ま……まぁ、ともかく、そういうことだったら、俺もぜひ働かせてもらいたいなぁ。

 ん?というか……かく言うお前はどんなサービスをしてるんだよ。

シーオーク:

 え?僕?

 僕は、サービスっていうサービスはしてないかなぁ、特性を活かしたことはしてるけど。

ガンコナ―:

 どんな?

シーオーク:

 配達した商品の販売店の良さを説いて、そのまま一緒にお店に連れて行ってる。

ガンコナ―:

 もう、それは宅配じゃないよ!


fin