『サンゴミズキ』 作:Alice
『サンゴミズキ』
作:Alice
【概要】
語り部が、とある出来事を語るスタイルです
そのためシナリオ内には、
「語り部」「三ノ宮美豆(さんのみや みず)」「後藤京介(ごとう きょうすけ)」
と3人出てきます
読みやすくなればと
「三ノ宮美豆」のセリフは△
「後藤京介」のセリフは▲
を頭につけています
演じ方、読み方、解釈次第では、登場人物が増えるかもしれません
語尾、一人称など変更可
キャスト様の話しやすい言葉づかいに変えてください
内容が大きく逸脱するようなアドリブのみNG
【本文】
サンゴミズキ…と言うものをご存知ですか?
白い花を咲かせ、冬に花が散ると枝が真っ赤に染まる植物です
生花(いけばな)にも使われるそうで、花言葉は「耐久」「成熟した精神」など…
今回はそんなサンゴミズキにまつわるお話を一つ…
ある街に、後藤京介(ごとう きょうすけ)と言う少年がいましてね
なんてことはない普通のサッカー小僧でした
唯一普通じゃないといえば、地元名家のお嬢様と幼馴染だってことぐらいです
…羨ましい
おっと失礼、心の声が
そのお嬢様の名前は、三ノ宮美豆(さんのみや みず)
大きな庭付きのお屋敷に住んでいますが、親御さんの方針で、いわゆるお嬢様学校ではなく私たちが通うような普通の学校に通っていました
引っ込み思案で大人しく、いつもぼんやりしているような女の子だったので、友達も少なく、幼馴染の京介にいつもくっついていたんです
…妬ましい
(咳払い)んんっ、失礼
まぁそんなわけで、普通の学校に通っていれば普通に課題が出てきます
皆さんも経験があるでしょう?
学生の時分は、なんやかんやと頭を悩ませながらもクリアしていくわけですが、とある冬のこの日に出された課題は、ちょっとわけが違いました
「サンゴミズキの写真を週明けまでに撮ってくること」
みな思いました
「サンゴミズキって何じゃい?」
と
御多分に洩れず、京介もこの課題に頭を悩ませました
課題に出されるくらいです
おそらく市内のどこかにはサンゴミズキとやらはあるのでしょうが、週末はサッカーの試合もあり、ゆっくり地域散策してる余裕なんてありません
部活終わりの帰り道、京介はたまらず美豆に愚痴をこぼします
▲「なぁ、お前のクラスもサンゴ…なんとかってやつの写真撮ってこい、って言う課題出た?」
△「サンゴミズキ?」
▲「そうそれ!サンゴミズキがなんなのかすら俺知らねぇんだけど…。部活だってあるし、探してらんないよ」
△「じゃあ、これからうちくる?うちの庭にたくさん生えてるから」
▲「マジで!?助かる!」
渡りに船とはこのことでしょうか
京介は二つ返事で美豆の家に行くことにしました
すると、突然美豆が手を握ってきたではありませんか
幼馴染とはいえ手を繋いだのなんて幼稚園ぶりです
思春期真っ只中、純情なサッカー少年の心臓は跳ね上がり、反射的に手を振り払おうとしました
…が、思いの外強く手を握られていたのか振り払えません
京介は動揺を隠すように口を開きます
▲「さ…サンゴミズキって結局なんなんだ?」
△「サンゴミズキはね、白い花を咲かせる木で、冬に葉っぱが枯れて落ちると、枝が真っ赤に染まるの。その色と形が珊瑚に似てるから、サンゴミズキっていうんだって。暑さに弱いんだけど、雑木林の奥とかでも見かけるよ」
さすが名家のお嬢様
よく知っています
▲「前、家に遊びに行った時はなかったよな?最近育て始めたのか?」
△「ううん、違うよ」
▲「え?じゃあなんで?」
△「気づいたらね、勝手に生えてきてたの」
▲「雑草じゃあるまいし、木が勝手に生えてくるなんてことあるのか?」
△「…さぁ、そんなのどうでもいいじゃない。そんなことより着いたよ」
顔を上げると、いつのまにかそこはもう三ノ宮邸の庭でした
以前は、庭師のおじいさんがたくさんの植物を管理していた色鮮やかな庭園でしたが、
今は、庭一面が真っ赤に染まって見えるほど、夥しい(おびただしい)数のサンゴミズキで埋め尽くされています
自然に生えてきた、というにしては異常な数のサンゴミズキ、何本もの細い枝が地面から叢状(そうじょう)に伸びており、全て3mほどの高さで止まっています
…まるで、無数の腕が地面から生えてきて、近づいた獲物を捕まえて逃さないような…
そんな異様な光景に、思わず声がうわずります
▲「なぁ、家の人に挨拶とか…」
△「今誰もいないから」
▲「え…お手伝いさんとかも…?いっぱいいたよな…?」
△「もっと増やさないといけないから、今はみんな出かけてるの」
▲「増やす…?」
△「そんなことより、早く写真撮らなくちゃ」
△「そこ立ってて。動いたらダメだよ」
言われるがまま、サンゴミズキの前に立たされた京介は、
▲「あれ…?なんで美豆が俺とサンゴミズキの写真撮ってるんだ…?俺が自分で撮ればいいんじゃ…」
そう頭のどこかで疑問に思いながらも、美豆のスマホカメラのシャッター音がカシャリとなるのを聞いていました
△「綺麗に撮れたよ。スマホに送るね?」
通知音が鳴り、京介は自分のスマホの画面を確認します
そこに写っていたのは…
赤い枝が全身に絡みつき、今にもサンゴミズキに引きづり込まれそうになっている自分の姿でした
驚いた京介は、すぐさまその場から逃げ出そうとしますが、足が一向に動きません
それもそのはず
なぜなら京介の身体は、写真そっくり、サンゴミズキに囚われていたからです
真っ赤な細長く硬い枝が、腕に、足に、髪に絡みつき、京介の身体を瞬く間に覆いつくしていきます
▲「…なんだこれ」
△「ねぇ京介」
▲「やめろ!離せ…!」
△「知ってる?サンゴミズキの花言葉」
▲「嫌だ!ここから出してくれ!」
△「サンゴミズキの花言葉は『ーー』」
△「あなたも私たちの一部になるんだよ」
△「おやすみなさい」
間
どれくらい経ったでしょうか?
5分…10分…もっとかもしれません
ミシミシと軋んだ(きしんだ)音をたてながら、京介を覆い隠していたサンゴミズキが再び蠢き(うごめき)出しました
△「おはよう、気分はどう?」
△「そう、よかった」
△「さぁ行こう?」
△「もっともっと仲間を増やさなくちゃ」
△「…自然破壊の元凶は許さない」
サンゴミズキの花言葉
「耐久」「成熟した精神」
そして…「洗脳」
…次はあなたの番、ふふっ…
さて、このお話はここでおしまい
いかがでしたか?
「人間」は自然の恩恵なくしては生きられませが、得手してそれを忘れてしまいがち
いつか、自然からしっぺ返しをくらうかもしれませんね
…余談ですが、いつのまにかうちの庭にもサンゴミズキが生えてきてましてね
そこのあなた、サンゴミズキ見たことありますか?
どうです?もしよろしければ、見にきませんか?
なかなかに壮観ですよ
おや、今回は遠慮しておく?
…それは残念
まぁ、おすすめは枝が真っ赤に染まる冬ですからね
その頃にまたお誘いしましょう
ふふっ…
0コメント