『異譚コード:錬金術師は『黒い猟犬亭』にいる』作:よぉげるとサマー

Aguhont Story Record 外伝

『異譚コード:錬金術師は『黒い猟犬亭』にいる』

作:よぉげるとサマー

60分



《登場人物》

■ アウラム

寂れたBAR『黒い猟犬亭』に入り浸る皮肉屋の錬金術師。

酒と軽口を好み、面倒事を嫌うが、錬金術に関する知識と洞察力は確か。

一見投げやりだが、均衡や理(ことわり)を重んじる職人気質な一面を持つ。

■ マスター

『黒い猟犬亭』の店主。

口は悪いが情に厚く、常識的な感覚を持つ苦労人。

巻き込まれ体質ながらも、土壇場では腹を括る意外な胆力を見せる。

■ イア

※???と兼役。

フードと仮面で素顔を隠した謎の人物。

冷静沈着で理知的、古代の文献や遺跡に精通しており、目的のためなら危険地帯にも踏み込む覚悟を持つ。

礼儀正しいが、どこか切迫した雰囲気を纏っている。

■ 神託(ディヴァイン・オラクル)

※マスターと兼役。

古代遺跡に名を刻まれた存在。

威厳ある語り口と圧倒的な知性を持ち、錬金術と魂に深く関わる力を感じさせる。



《本編》

≪バルナ国、「サイホク」の歓楽街「ススグノ」のBAR『黒い猟犬亭』≫


マスター:おーい、アウラムよぉ……今日は、やけに飲むな。

アウラム:何言ってんだ。こんなの水みたいなもんだろう……ふう。

マスター:おーい、そりゃウチの酒が薄いってことか?

アウラム:ああ、値段に見合った良い酒を出しやがるなってことだよ。

マスター:はー⁉ お前なぁ……!

アウラム:ほら、客が来たぞ。

マスター:ぐっ……あー?

イア:……こんばんは。

マスター:はぁ……いらっしゃい、お好きな席へどうぞ。

イア:……となり、いいか?

アウラム:……どうぞ。

マスター:注文は?

イア:そうだな……彼と同じものを。

アウラム:いいのかぁ? 水にしちゃあ高いぞ。

マスター:水じゃねぇよっ!

イア:大丈夫だ。それをひとつ。

マスター:……はいよ。

アウラム:……で? 店の中でフードも取らねえ奴が、こんな人気の無いバーに何か用か?

マスター:おーい、いちいち嫌味言ってんじゃねーよ、出禁にするぞ。

アウラム:はははっ。

イア:それは失礼。フードを脱ごう。

アウラム:……うーわ。鼻から上だけのキザな仮面つけてやがる……どんだけシャイなんだよ。

イア:すまないな、晒(さら)すには少し見苦しい傷があってね……。

マスター:うーわ、引くわー。他人様(ひとさま)の容姿を悪く言うんじゃねぇよ。

アウラム:悪くは言ってねぇだろっ! ……まあ、悪かったよ。

イア:いや、それが普通の反応だ。気にしてない。

アウラム:そうか……それじゃ、話の続きだ。ここに何しに来たんだ?

イア:このバーに……腕利きの錬金術師が居ると聞いてね。

アウラム:ははっ、腕利き? まさか俺のことか? おい、腕利きだってよ。

マスター:……腕利きかどうかは別として。錬金術師なんざ、お前しか居ないのは確かだな。

イア:……擬似生命体の錬成、という秘術に聞き覚えは?

アウラム:(※酒をあおる)……ホムンクルス、か。

イア:やはり知っているのか。

アウラム:……単語はな。だが、精製方法は知らない。別に、知りたくもないがね。(※酒をあおる)……ふう、おかわり。

マスター:おーい、水なんじゃなかったのか?

アウラム:へっ、だから追加してんだろうが。こんなんじゃ酔えやしねえよ、まったく。

マスター:クソ客め……ほらよ。

イア:……では、その秘術が手に入る場所については……?

アウラム:なぁ、あんた。それを手に入れたいから俺をあたってるんなら、無駄骨だぞ。俺は、何も知らない。

イア:本当に?

アウラム:あぁ。興味が無いことは、さっぱりなんでね。

イア:……良かった。私利私欲で動く人では無いようだ。

アウラム:ははっ。そりゃ、どういう意味だ?

イア:私は、その秘術が封印されている場所を、知っている。

アウラム:……へぇ。

イア:そして、その秘術を狙うモノたちの存在も。

マスター:おーいおい、なんか物騒な話をしようとしてねーか? ここはただの呑み屋だぞ、勘弁してくれよ……。

アウラム:いいだろう、どうせもう客なんて来ねぇんだから。

マスター:そんなことねぇよ! そんなことねぇけど……まぁ、クローズにして来てやるよっ! ふんっ!

アウラム:ははっ、なんだかんだ付き合いの良い奴だ……。それで?

イア:場所は変えなくても?

アウラム:ここを動く気はねぇ。それに聞かれてまずいことなら、そっちが気を遣って話せば良いだけだろ?

イア:……奴らは、擬似生命体の錬成を『神の再現』と呼び、その秘術を血眼(ちまなこ)になって探している。

アウラム:……『神の再現』ねぇ。そう謳(うた)えるくらい、大した技術なんだろうな……本当にそれが可能なら、だが。

イア:可能かどうか、なんて些末(さまつ)な問題だ。本当に問題なのは、成功に至るまで実験を繰り返す気概が、奴らにはある、ということだ。

アウラム:そりゃあ、金も人手もあって羨ましい限りだな。

イア:あぁ。どちらも信者から巻き上げて、無造作に消耗する、愚かなカルト教団だ。

アウラム:宗教か……最近ここら辺でも新興宗教がチラホラ増えてるみたいだが……総じて、ろくなもんじゃ無さそうだな。

イア:あぁ……ろくなもんじゃ無いさ。

アウラム:……。

イア:……アナタは、擬似生命体の錬成に必要な素材を知っているか?

アウラム:いんや、知らないね。

イア:想像はつくだろう?

アウラム:……まあ、想像すればな。だが、考えたことも無かったから、素材と言われても、パッとは……。

イア:人間だ。

アウラム:……あ?

イア:零(む)から壱(いち)は創(つく)れない。酒には水を、金には鉛(なまり)を……そして、生命(いのち)には、生命(いのち)を。

アウラム:……そんなもんを、錬成(れんせい)と言えるのか?

イア:整形(リビルド)も、立派な錬金術……ということなんだろう。

アウラム:……クソみてぇな話だぜ。

マスター:ふぅ、ただいまーっとぉ……。

イア:奴らは、大量の信者を生贄(いけにえ)に、神を錬成しようとしている。

マスター:(※小声)うわぁ……聞いちゃダメそうな話の時に、戻って来ちゃったよぉ……。

イア:それを止める為に……アナタの知識が必要だ、アウラム。

アウラム:……俺に何をさせるつもりだ?

イア:まだ奴らは、秘術の在処(ありか)を完全に掴(つか)めていない。私たちが奴らより先に、秘術を確保する。

アウラム:なるほど……あんたには、その秘術のある場所が分かってるんだったか?

イア:特定できている。だから、アナタの前にいる。

マスター:(※小声)……えっ、なんかちょっとカッコいいな、その言い回し。

アウラム:はぁ……その確保に俺が必要な理由は?

イア:秘術の眠る遺跡内は、錬金術の知識が必要な仕掛けであふれているんだ。

アウラム:謎解き係か……そりゃ面倒だ。

イア:協力してくれないか?

アウラム:嫌だね。……嫌だが……あんな話されたんじゃ、ほとんど脅(おど)しみてぇなもんだろうが。

イア:事実を述べたまでだが……アナタがその気になってくれたのなら良かった。

アウラム:はぁーあ……おかわり。

マスター:えっ? お前、まだ呑むのかよ!

アウラム:当たり前だろうが! とんだ面倒ごとに巻き込まれるんだ、呑まなきゃやってられねぇよ! あ、言っとくが、あんたの奢(おご)りだからな!

イア:ふっ……了解した。そういえば名乗っていなかったな。改めて……私はイアと言う。よろしく頼む。

アウラム:あぁ……俺は、アウラムだ。

マスター:じゃあついでに俺も。俺のことは、マスターって呼んでくれ。

アウラム:はやく水をくれ、マスター。

マスター:水じゃねえっての! はぁ……なんか大変なことになったな、アウラム。

アウラム:うるせえよ。他人事だと思いやがって……。

マスター:他人事だからなー。ま、墓に酒くらいは供えてやるよっ。

アウラム:……勝手に殺すなっ。



≪一路! 北街道を行く!≫


マスター:……て、おぉーい! なぁーんで俺まで連れて来られてんだよぉっ! 見送る流れだったじゃねえかよー!

アウラム:なんだいきなり、うるさい奴だな。

イア:さっきまで黙って運転してくれていたのに。

マスター:お前らが、有無を言わさずに強要してきたんだろうがっ!

アウラム:なんだ、嫌なら言ってくれれば良かったのに。

マスター:言ってただろ! だけど、言うたびに……「なんか言ったかぁ?」って拳を鳴らして来たんじゃねぇか! 怖え奴だな、クソが!

アウラム:ははっ……なんか言ったかぁ?

マスター:だから! それやめろってぇ!

イア:まあ、騒ぐのもそれくらいにしておこう。車から荷物も降ろし終わったことだ。先へ進もう。

アウラム:あぁ。……おい、どうした? 行くぞ。

マスター:ん? え? 俺も行くの⁉

アウラム:あ? ここで待ってんのか? まあ、それでもいいけど。

マスター:待つ⁉ ひとりで⁉

アウラム:待つならな。

マスター:いやいやいや、待てねえよ! 帰るよ!

アウラム:いや、犬なら待てるだろうが。

マスター:犬じゃねぇよ、オレは犬型獣人だ!

アウラム:だから、犬だろ?

マスター:違う! あくまで獣人だっての!

アウラム:はいはい、お手。

マスター:ワンッ! ……だからしねぇよ!

アウラム:いや、してんじゃん。

マスター:とにかくっ、俺は行かねえからな! 絶対危ないだろ!

イア:一緒に来るのは嫌か。

マスター:あぁ、嫌だね! こんなとこに居られるか! 俺は帰らせてもらう!

イア:それが一番安全だと思ったんだが……この辺りは、危険生物も生息しているからな。

マスター:え?

アウラム:まあ実際、来る途中も襲われたしな。俺とイアで撃退したけど……お前、ひとりで大丈夫か? さっきは車の中で震えてただけだったけど。

マスター:いや、それは……あれって、珍しいパターンじゃ、無かったんだ……?

イア:遭遇率は低く無いと思うぞ。

マスター:マジかよぉ……。

アウラム:んじゃあ、気をつけて帰れよ。さ、行こうぜ。

マスター:ちょちょちょちょーい、待ってくれよー!

アウラム:なんだよ、うるせえな。おい、ひっつくな!

マスター:ここまで車で5時間はかかっただろー⁉ 俺が帰ったら、お前ら帰りが大変だろうし、仕方ないからついてってやるよ! いやー、ひとりで帰れるけど! 優しさで! ついてってやるよ!

イア:嫌なら気にせず帰ってくれていいんだぞ? ここまで連れてきてくれただけでも充分だ。

アウラム:そうだぞー。気にせず帰っていいぞー。死ぬかもしれないけど。

マスター:うるせぇよ、ついていくって言ってんだろうが、バカ野郎!

アウラム:ははっ……なんか言ったかぁ?

マスター:やめて! ごめんなさいって!

アウラム:はははっ。さて、今度こそ行くか。

イア:あぁ。この先に、例のカルト教団が居たとしてもおかしくない。居なかったとしても、油断できない場所だ……気を引き締めて進むぞ。

アウラム:はぁ……了解。

マスター:あ……おい! ちょっと、置いて行かないでくれよぉ!



≪侵入! 『入れずの森』!≫


マスター:おーい……もうずっと獣道ですら無いぞー……まだ歩くのかぁ?

イア:もう少しだ。

マスター:10分前も20分前も、そう言ってたじゃんかよぉ!

イア:10分ごとに聞くからだろう……もう本当に少しだ。

アウラム:はぁ、うるせえ奴だ……。うがっ......くそっ、にしても、草木が邪魔すぎんだろっ。このっ!

イア:さっきも言ったが、あまり草木を粗雑(そざつ)に扱わないようにな。痛い目にあうぞ。

アウラム:わぁかってるって。毒のある植物が多いとか、本当に……。あぁっ、クソッ! 面倒だなっ、ちくしょう!

マスター:うわぁ! こっちに飛ばすなよ! 死んだらどうすんだ!

アウラム:そんなすぐ死なねえよ!

マスター:わぁ! 何日も苦しんで死ぬんだぁ!

アウラム:そゆことじゃねぇよ!

イア:楽しんでいるところ悪いが。気をつけろ……そろそろ、バルナ国の外だ。

マスター:楽しくねえわ!

アウラム:この森、国境またいでんのか……けど、それが何なんだ?

イア:魔法が使える区域になる、ということだ。

アウラム:んー? ……いや、なるほど……なーんか、空気が変わったな。

イア:遺跡の結界域に入ったんだ。ここから先が……『入れずの森』だ。

マスター:『入れずの森』……なんかいかにもヤバそうじゃんか。

アウラム:『入れずの森』ねぇ……でも、入れてるじゃねぇか。

イア:ふふっ……やはり気づくか。(※待ってました感)

アウラム:なんだ……「やはり気づくか」って。おもしろポイントが共有できたー、みたいな反応するんじゃねぇよ。

イア:懐かしいな。最初に知った時は、「入れるのに『入れずの森』ってなんだよ」と、さすがに私も笑ったよ。

アウラム:若い頃あるあるだよねー、じゃねぇんだよ! 別に俺は笑ってねぇだろ! おいっ、肩をポンポンしてくんなっ!

イア:誰しも通る道だ。恥じる必要は無いぞ。

アウラム:恥じてねぇよ、お前だけが恥ずかしい奴なんだよ! 他人をお前が通った道に押し込んでくんじゃねえ!

イア:うんうん。

アウラム:うんうん、じゃねぇ! 何だこいつ! 押し付けがましいにも程があるだろ!

イア:おっと……そろそろ集中しないといけないな。なんせ『入れずの森』に「入って」しまったからな。ふふっ。

アウラム:うるせぇなっ!

マスター:なんでお前らそんなに元気なんだよ……。はぁ……そういや、なんで『入れずの森』って言うんだ?

イア:そうだな……正確なところは不明だが、主に3つの説がある。

アウラム:3つもあんのか。

イア:1つは、道が整備されていない為、物理的にたどり着けない者が多いという物。途中で動植物の被害に遭ってしまうケースも少なくは無い。

マスター:まぁ、そうだろうなぁ。実際にここまで来て、嫌ってほど体感させられたし……。

イア:2つ目に、精神が拒絶される、と言う説。

マスター:精神?

イア:恐怖、欲望、焦り……強すぎる感情を持つ者ほど、森に拒まれる。

アウラム:……なんだそりゃ。一気にオカルトくせぇなぁ。

イア:いや、そうでもないさ。この森に自生する植物や菌糸類が放つ毒は、精神に異常をきたす物が多い。

アウラム:あー、それで興奮気味の奴ほど狂っちまうってことか。

マスター:こえー……。

イア:そういうことだ。だから、この森は踏み込む者の内面を測る。という言われがついたようだ。

アウラム:試験官気取りの森、ってわけかよ。

イア:そして3つ目。これは単純だ。魔物化した動植物に阻まれる。

マスター:……単純で一番まともな理由だけど……一番ヤバいじゃんか。

イア:ここは魔素の濃度が濃い。実際に、魔物が生じることも少なく無いようだ。

アウラム:カルト教団よりも身近な恐怖だな。

イア:あぁ、それに、遺跡の結界が作動しているせいで、時間感覚も歪まされてしまう。長居は禁物だ。

マスター:なんてとこに連れて来てくれたんだ、ちくしょー……。

アウラム:……なぁ、イア。

イア:なんだ?

アウラム:あんた、よくこんな危険なとこを調査できたな。

イア:……いや、私は調査していない。

アウラム:あ?

イア:私は、あくまで様々な調査記録を読んだだけで……実地調査は今回が初めてだ。

アウラム:……はぁ?

イア:だから、アウラム。頼りにしているぞ。

アウラム:あのなぁ……ん?

マスター:うおっ。どうしたんだよ、いきなり立ち止まって……。

イア:……あそこの空間、歪んでいるのが見えるか?

アウラム:……あぁ、見えるな。

マスター:なんだよあれ……。

イア:あそこが遺跡の入口だ。

アウラム:ようやくか……。

イア:あぁ。ここからが本番だ。

マスター:ここまでも辛かったのに……。

アウラム:……なぁ、ここまで来て言うのもなんだが……。

イア:何だ?

アウラム:俺は、あんたを完全には信用していない。

イア:……そうだろうな。だが、それでいいさ。どちらにせよ、私には他の選択肢など無い。

アウラム:……謎解きには協力してやるが、命の危険を感じることはパスだ。いいな?

マスター:お、俺も!

イア:分かった……元より、命を賭けるのは、私の務(つと)めだ。問題ない。

アウラム:……んじゃ、行こうぜ。

イア:……あぁ。



≪発見! 封印されし領域『オーフネイ遺跡群』!≫


アウラム:思ったより、デカいな……。

イア:だろう? だが、これでも表に見えているのは、全体の一部に過ぎない。

マスター:この中に入んのかよぉ……。はぁ……にしても、こんなんよく見つかってねぇな。

イア:意図的に隠されているんだ。結界と地形操作によってな。

アウラム:地形操作? 「入れず」を実現してる要素は、人工的な物だってことか?

イア:全てでは無いだろうが、おそらくな。文献によると……ここは、偉大なる四賢者たちが封印した遺跡群のひとつらしい。

マスター:へぇ、そりゃかなり昔のもんなんだな……ん? 遺跡「群」、ってことは……。

イア:同様の施設が、他にも点在している。

マスター:ちょっと待って。まさか……そのどれかに秘術があるから、しらみ潰しにー……って話じゃないよな?

イア:もちろんだ。いま見てるこの遺跡の中に、秘術はある……はずだ。

アウラム:はず、って……あんた。

イア:だから言ったろう? 私も実地調査は初めてなんだ。

マスター:それにしたってよぉ……。

イア:そもそも錬金術師なんていう失われかけている存在、そう簡単に見つからなかったんだ。

アウラム:……まあ、今じゃ職業と言えるかも分からねぇしな。薬なら薬師や医者がいる。錬成なんてのは科学者が自動化してる。それに……オカルトみてぇなものは、排斥(はいせき)されるだけだ。

イア:……アウラム、マスター、これを。

マスター:あぁ……ランプか?

イア:どちらかと言えば、ライトだ。

アウラム:ははっ、近代的だねぇ。皮肉っぽいもん持たせやがって。

イア:すまないな。そんなつもりは無かった。

アウラム:分かってるよ……入口でも割と暗いな。足元、気をつけろよ。

マスター:おう……。

アウラム:で、扉はこれか……この紋様(もんよう)、五大元素だな。

イア:五大元素?

アウラム:世界を構成する五つの要素のことだ。土、水、火、風、そして……魂。

マスター:魂? それも元素なのか?

アウラム:あぁ、すべてに意味がある。これは古い形式だが……理屈は変わらないな。

イア:……それで、扉の開閉条件は?

アウラム:あー、たぶん……均衡(きんこう)だな。

マスター:均衡? どういうことだ?

アウラム:五大元素は言わば、世界を世界たらしめるバランスのことだ。詳しくは省くが……どれか1つでも偏れば、扉は閉ざされるってことだと思う。

イア:なるほど……紋様(もんよう)がスライドできそうだし、信憑性(しんぴょうせい)があるな。

アウラム:うん、動かせるな……これをこう……そんでこれを……よし、いける。開くと思うから、ちょっと下がってろ。

マスター:……おぉ、開いていく!

イア:さすが……お見事。

アウラム:これくらいでおだてんなよ。……入るぞ。



≪潜行! 遺跡内部!≫


イア:……やはり内部は魔素が濃いな。

アウラム:分かるのか?

イア:少し魔法の心得があるからな。それでなくとも、湿気や淀(よど)みとは違う類(たぐい)の息苦しさを感じるだろう?

マスター:そうだな……そうでなくとも、大昔の遺跡だってんだから……。うぅ、嫌な予感しかしねぇよ……。

イア:……ん? これは……あっ。

マスター:うおわぁっ、なんだぁっ⁉

アウラム:デカい音がしたな……それに、振動も……!

イア:……これは、おそらく。入口の扉が閉じたのかもしれない。

マスター:……なにぃ⁉ な、なんで急に!

イア:遺跡というのは、侵入者を閉じ込める罠があるのが一般的なんだ。

マスター:一般的ってなんだよ!

アウラム:マジで閉まってやがんな……。

マスター:嘘だろぉ⁉︎ ぐっ、ぬっ、このっ……うぉお! びくともしねぇ!

アウラム:おい、マスター落ち着けよ。

イア:そうだぞ。入る時の謎解きで分かっているだろう。力づくでは開かない。

マスター:じゃあどうすりゃいいんだよぉ! こっち側にギミックなんざ見当たらねぇぞ!

イア:進むしかないだろう。

マスター:……なんで、そんなに落ち着いてんだ?

イア:取り乱してもしょうがないだろう。それに……私がここの突起に触ってしまった時に、「あ、閉まるかもな」と予測できていたので、心の準備はできていた。

アウラム:てめぇのせいかよ!

マスター:お前のせいかよ!

イア:すまない。だが、どちらにせよ。先に進むには、こうするしか無かったようだぞ。

マスター:はぁ⁉

イア:見ろ。壁に文字が浮き出て来た。

アウラム:なにぃ? あー……なるほど。

マスター:いや、だからって「良かった良かった」にはならねぇからな! 無闇に触るな! 反省しろ!

イア:それは本当にすまない。反省する。

アウラム:はぁ……んで、この文字ねぇ……。

イア:分かるか?

アウラム:……あんたは?

イア:いや……私の知っている言語では無い。系統は、古代エルフ文字に似ているが……。

アウラム:これは、錬金記号だ。それも古い形式のな。

イア:なるほど、文字ではなく式号か……。

アウラム:あぁ。この答えを示せば、扉は開くってことだろう……都合よく考えればな。

マスター:……解けるのか?

アウラム:解けなきゃ、ここで野垂れ死にだろうが。えーと……魂を媒介に、器を整える……か。

イア:器?

アウラム:肉体のことだよ……生命の錬成関連なのか、これ……いや、違うな。これは……なるほど、通過儀礼ってことか。

マスター:通過儀礼?

アウラム:つまるところ、これは即物的な答えを示せ、という式じゃなく……盗掘者である俺たちの「魂の均衡」を測ってるんだ。欲深い奴は、弾かれる。……つまり、ここに閉じ込められて死ぬってことだな。

イア:……では、どうすれば良いんだ?

アウラム:答えは単純さ……何も求めない。

マスター:求めない?

アウラム:あぁ。奪う気も、得る気も捨てる。無に近い感情で、ただ静かであれば良い。

イア:ここの仕掛けは、感情を読み取るというのか? それに、何も求めない、なんていう曖昧なことが可能なのか?

アウラム:知らねぇよ。だけど、やってみるしかねぇだろ。静かにしておけよ……さて、ここに手を置いて……目を閉じ……何も考えない。

マスター:…………おぉっ、光が!

アウラム:……開いたか。

マスター:……って、入口とは別の扉じゃねえかよぉ!

イア:進むしかなさそうだな。行こう。

アウラム:……あんた、反省してるか?

イア:……してます。

0:≪到達! 中枢大広間『護竜角』!≫

マスター:ま、まだ先があるのかよぉ……。もう、だいぶ進んだぞ……。

アウラム:そうだなぁ……謎解きも、さすがに腹一杯なんだが。

イア:っ……安心しろ……どうやら、そろそろクライマックスみたいだぞ。

マスター:マジかっ! どれどれ……うおっ、広っ⁉︎

アウラム:こりゃあ……確かに、最後の関門かもな。

イア:文献にあった通りだ……。ここが遺跡の中枢……秘術が安置された、最深部。

マスター:……なんか、今までの部屋と、スケールが違いすぎないか?

イア:部屋全体に、式号が刻まれているように見えるな……大掛かりな仕掛けになっていそうだ。

アウラム:…………なるほどな。ここまで来て、ようやく腑(ふ)に落ちた。

マスター:え、なにがだ?

アウラム:この部屋に刻まれた錬成式のことだよ。今までの部屋で解かされてきた式号……その全部が、断片だったんだ。

イア:断片?

アウラム:あぁ。元素、均衡、魂の媒介、器……全てが、これに繋がってくる。

マスター:それって、つまり……ここで、今までの応用をやらされるってことか?

アウラム:あぁ、この式を完成させ、神託を得よ……ってことらしい。

イア:やはり、これが秘術を得る為の……よし、どうすればいいんだ?

マスター:いや、ちょっと待てよ! こんなデカいのを完成させるって……何が起きるか分かってんのか?

アウラム:いや、分からん。

マスター:分かんねぇんじゃんか!

アウラム:だからって、他に選択肢なんてねぇよ。ここまで出口なんて見当たらなかっただろ。

マスター:そ、そりゃ、そうだけどさ……。

アウラム:それに、起動したら即死するような内容なら、さすがに途中で気づく。

マスター:……でもよぉ。

イア:おい、錬成式が光っているぞ……何かに反応しているのか?

マスター:うぇぇ⁉︎ 何かって何に⁉︎

アウラム:……あんたが、そこに近づいてるからだよ。生体、つまり、人間に反応してるんだ。

イア:……人間、に?

アウラム:あぁ。この式を繋げる為には……手っ取り早く言やぁ、人の配置が必要だ。欠けている部分を見るに……媒介とするのは、なんとか3人で足りそうだ。

マスター:配置って……まさか、生贄にするのかっ⁉︎

アウラム:そんなんじゃねぇよ。ただ、均衡を取る為に、魂が必要なんだ。

マスター:魂⁉︎

イア:魂を媒介とするだけだろう。そこにあることで、式が繋がる、それだけだな?

アウラム:あぁ。何かを失うことはないから、安心しろ。立ってりゃいいんだ、できるな?

マスター:そうなのか……し、信じるからな!

イア:……で、どこに立てばいい?

アウラム:……そこだ。

イア:了解した。

マスター:え、じゃあ俺は?

アウラム:……そこだな。

マスター:……マジでやらないとダメか?

アウラム:今更だろうが。うだうだ言うんじゃねぇっ。

マスター:く、くそぅ……!

イア:マスター、大丈夫だ。何かあれば、私とアウラムが助ける。

マスター:頼むぞぉ……何も起きなきゃ一番良いんだけどなぁ……。

アウラム:よし。じゃあ始めるぞ……魂を媒介に、器を整え……均衡のもと、継承を……開始するっ。

マスター:うわっ⁉︎ なっ、足元から光がっ!

イア:振動も、大きい……! 2人とも、気をつけろ!

アウラム:っ……くそっ、動くんじゃねぇぞ! 途中で均衡が崩れたら、何が起こるか分からねぇからな!

マスター:うおっ、な、なんだ⁉︎ 頭がっ、うぐっ、あぁ!

アウラム:おい、どうした! 大丈夫かっ⁉︎

イア:マスターの上部に、光が……あれは、円環(えんかん)? アウラム、どうなっているんだ⁉︎

アウラム:おそらく、継承の対象がマスターになっちまったんだ!

イア:っ、そんなっ!

マスター:う、うわぁー! あっ……うっ……!

アウラム:マスター!

イア:おい! 動いて良いのか⁉︎

アウラム:おい、マスター! しっかりしろ! おい!

イア:……反応は無さそうだが……秘術の継承というのが、直接脳内に情報を書き込むようなことなら、一時的な昏倒(こんとう)で済むかもしれない。

アウラム:くそ……とにかく、継承は済んだんだ。出口を探すぞ!

イア:……そうだな。

マスター:……うぅっ。

アウラム:っ、気づいたっ! おい、話せるか⁉︎ マスター!

神託:……久しいな。新たにここへ至った者は。

イア:っ、気配が違う!

アウラム:誰だ、お前!

神託:我が名は。『神託』(ディヴァイン・オラクル)。継承の審判者。……命を模し、魂を宿す技を求めし者よ。それを、何のために求める?

アウラム:マスターを媒介にしてやがるのか……!

神託:答えよ。汝(なんじ)が継承するに相応しいかを、示せ。

イア:『神託』(ディヴァイン・オラクル)! 私に継承してくれ! 私は、無駄な犠牲を防ぐ為に、この秘術を求めるっ!

神託:『解析』……完了。ふむ……なるほど。志(こころざし)は立派だが……汝は、器が相応しくない。

イア:なっ、器……⁉︎

神託:汝はどうだ? 汝は、何のために求める?

アウラム:……俺は、そんなもんに興味はねぇよ。

神託:なんと……汝ならば、この技を受け継ぐに相応しい器を持つというのに……求めぬのか?

アウラム:器ねぇ……残念だが、俺にその気は無い。さっさとマスターの中から出て行け!

イア:おい、アウラム! それでは秘術が!

アウラム:命の危険があれば協力しない、そう言っただろ!

イア:確かにそうだが、それとこれとは……!

神託:残念だ……この器で妥協せねばならんとは。

イア:なに……?

アウラム:ちっ、思った通りかよ……!

イア:どういうことだ⁉︎

アウラム:秘術の継承……それは、こいつが人間の器(からだ)を得る為の、術式だったってことだよ。

神託:さすがだ。汝の器が得られぬのは、実に惜しい。だが、仕方あるまい。我の受肉こそ、最優先事項だ。

イア:……このままだと、奴はマスターに成り変わり……私たちが秘術を継承することもできない、ということか?

アウラム:そういうこった……。

神託:この器の魂(エーテル)を媒介に、我は復活を遂げる。その後であれば、我が秘術を授けてやっても良い。なにせ……汝らのおかげで、我は永(なが)き死から解放されるのだからな。

イア:……くっ!

アウラム:ははっ……都合の良いことばっか言いやがって……。おい、ディヴァインなんちゃら。

神託:『神託』(ディヴァイン・オラクル)だ。

アウラム:てめぇの思い通りにはさせねぇ。まだ錬成式の完了までには、時間がかかるはずだ。その前に……マスターを返してもらうぜ。

神託:愚かな……この世界から我が失われている現状が、どれだけの損失なのか理解できぬか。

アウラム:理解できないねぇ。俺は、興味のないことはさっぱりなんでな。

神託:致し方ない……術式は、進行中だ。汝らに邪魔はさせぬ。……均衡維持工程、起動。

アウラム:すまねぇが……協力してくれないか、イア。

イア:……何を言っている、アウラム。マスターに助けると約束したんだ、当たり前だろう。

アウラム:……ははっ、しゃーねー、今だけは信用してるぜ!

イア:任せろ!

神託:式号展開『五元均衡』(ごげんきんこう)



≪止めろ! 魂を蝕む術式!≫


イア:……錬成式の光が増したっ? これは……術式の加速か?

アウラム:いや、それはあり得ねぇ。おそらく、錬成式の破綻を防ぐ式だ……『解析』する。

神託:然(しか)り。時間の流れは飛躍(ひやく)しない。我は時を待つのみで良い。術式をより完全なる物へ昇華(しょうか)させれば、盤石(ばんじゃく)だ。

アウラム:古い考えだが……そっちは防御に徹してるだけで良い訳だからな……合理的だぜ、ちくしょう……!

イア:どうする? 攻撃するのは簡単だが……。

アウラム:力ずくで術式を壊すのは無理だな。五大元素の均衡を崩すのは、本来簡単だが……さっきの錬成式が、崩れたそばからバランスを取りやがる。

イア:なるほど、相手は持久戦の構えか……この状況だと厄介だな……。

神託:時を待つことも、術式の一部だが。みすみす汝らに、我と同じ時を過ごさせる訳にはいかぬな。

アウラム:ちっ、急かしやがって……!

神託:式号展開『火元素・還元』(かげんそ・かんげん)……放射。

イア:なにっ⁉︎ くっ、マスターの……奴の手のひらから、レーザーがっ!

アウラム:そのまま避けとけよ! 燃えるぞ! にゃろう……物質から、熱と光を分解してやがる......! そんなん、ほぼ魔法じゃねぇか!

神託M:ふむ……すべて避けられている。人間に反応できる速度とは思えないが……何か補助具でも使用しているのか……?

アウラム:くっ、そがっ、よぉっ!

アウラムM:っ……レーザーを避けるのは難しいことじゃねぇ。元素の流れを見誤らなければ良いだけだ。……問題なのは、避けるのに集中力が必要なこと! このままじゃ、錬成式が完了しちまう! 早いとこ、何か方法を考えなきゃならねぇってのに……!

イア:……アウラム! このままでは奴の思う壺(つぼ)だ! 術式が完了してしまう!

アウラム:うっ、んなこと分かってんだよ! けど……!

イア:だから! 私が奴の攻撃を防ぐ! その間に、何とか術式を止める方法を考えろ!

アウラム:んなっ⁉︎ あんた、できる算段があって言ってやがんのかぁ⁉︎

イア:できなきゃ、ここで野垂れ死にだろうが!

アウラム:ぐっ……ははっ! そりゃそうだ……信じてやるしかねぇなぁ、こんちくしょう!

イア:ふっ、任せろ! 『手繰(たぐ)る糸は指先に。走る稲妻は絡む糸に』……!

神託:ほう……足掻(あが)くか。

イア:……『電操糸』(エレクトロ・スレッド)!



≪崩せ! 完璧なる術式!≫


アウラムM:あれは……電流を糸状にしてんのか?

神託:それは……火元素か? そんなか細い糸で、この攻撃を防げるというのか?

イア:防ぐ必要は無いっ。『電導線』(コンダクション・ライン)!

神託:なに?

アウラムM:レーザーが糸に触れたとこから、軌道が逸(そ)れやがった! まさか、エネルギーの放出経路を誘導した⁉︎ マジかよ、んなこと可能なのか⁉︎

神託:……雷(いかずち)を操るとは。汝らを過小評価していたようだな。仕方ない……式を増やそう。

アウラム:また別の式を……! 気をつけろよ!

イア:分かってる! お前は、そっちに集中しろ!

神託:式号展開『風(ふう)元素・分解』……整列。

イア:空力操作……くっ、風の刃かっ!

アウラム:うおっ! 空気の流れを揃えてんのか……カマイタチかよ!

イア:出力を上げる……『過電圧』(サージ)!

神託:これは……風(ふう)元素が乱されている。

アウラム:そうか……空気を電圧でイオン化させて、式号での操作を乱してるのか……!

イア:アウラム! 感心していないで、早く手を考えろっ! っ、長くは持たないぞ!

アウラム:あっ……分かってらぁ! ……式号を『解析』する、しかも『鮮明』に!

神託:なかなかに面白いが……雷(いかずち)は、五大元素のもたらす副産物に過ぎない。五大元素は世界そのもの。不和は、均衡に消えるのみ。

アウラムM:確かに、錬金術において、電気は元素たり得ない。媒介を通してしか存在を定義できない物は、素材では無い……。

神託:式号展開『地元素・収束』……。

イア:っ……地面から岩の塊がっ!

神託:射出。

イア:『破断線』(フラクチャー・ライン)!

神託:……なるほど、裂け目を穿(うが)たれたか。

アウラム:うわっ、破片がっ……くそっ、錬成式が見えねぇ……!

神託:式号展開『水(すい)元素・転写』……刺突。

イア:つっ! 『網状線』(ラティス・ライン)!

神託:その網を通すと、水の形状が分解されるのか……ふむ、分子構造が破壊されてしまうらしい。

アウラム:四元素による攻撃を上手く凌(しの)いでやがる……なかなかやるじゃねぇか……! おっと、俺は俺の仕事をしねぇと……。

神託:良い技術を見せて貰った。礼を言おう。それでは……式号を繰り返そう。

イア:っ、同時に繰り出せるのかっ⁉︎

神託:当然だろう。式号、再展開。

イア:ぐっ、くそっ……! 同時に別種の攻撃を捌(さば)くのは……さすがに、負荷が掛かり過ぎる……!

アウラム:っ、大丈夫か⁉︎

イア:だ、大丈夫だ……まだ……!

神託:素晴らしい対応力だ。だが、耐えているだけでは、術式は止まらぬぞ。

イア:うぁっ……!

アウラム:ちぃっ……んなこと分かってんだよっ、クソ……! やっぱ、元素の均衡は崩せなさそうだ……古い式のくせして、隙がどこにもねぇ……! なにか、なにか取っ掛かりがありゃ……!

神託:その様子では、術式の完了まで耐えられなさそうだな。式号展開『魂(こん)元素・付与』……充填。

イア:っ、なんだっ、技の威力が……上がって⁉︎

神託:すべての術式を強化した。これで、詰みだ。

イア:ぐぁっ、処理がっ、追いつかな……うぐっ!

アウラム:イア! くそっ! どこまでも慎重な奴だ……このままじゃ……!

イア:『……ドライブ』

神託:これは……魂(こん)元素の反応が……?

イア:『蒼荷電』(アジュール・チャージ)!

アウラム:なんだっ⁉︎ イアの体が、青く光って……!

神託:雷(いかずち)の出力と速さが段違いに変わった……? なるほど、汝も魂(こん)元素で技を強化したか。

アウラム:すげぇ、完全に複雑な攻撃を処理できてやがる……。

イア:これは…….奥の手だ! 消耗が、酷いんだ! アウラム、本当に、もう保(も)たない……! なんとか……早くしてくれっ!

アウラム:あ、あぁ! くそっ、何とかしねぇと……五大元素の完璧な均衡……あんだけ慎重なんだから、まず綻びは無い……ちくしょう、こんな古びた式なんかにっ!

神託:攻勢に転じられては厄介だ。式号を重ねよう。

イア:ぐっ……まだ、増えるのかっ!

アウラム:待てよ……古い式? ということは……そうだ。そうだそうだそうだ! 五大元素か! なんで気づかなかったんだ!

神託:式号展開『五大元素・複号』……追撃。

イア:くっ、そっ……!

アウラム:式号展開……『第六元素・仮定』!



≪決着! 未来への式号!≫


神託:なんだ……術式の均衡が乱れて……これはいったい……どうして我が錬成式に干渉できる?

イア:はぁ……はぁ……止められたのか?

アウラム:あぁ……おい、ディヴァイン……なんちゃら。

神託:汝、我が術式に何をした?

アウラム:簡単なことだよ。六元素目の概念を書き加えただけだ。テキトーにな。

神託:六元素、だと? そんな物、存在しないはずだ。

アウラム:あんたの時代にはな。今じゃ立派な主流概念だぜ? まぁ、絶賛研究中で、諸説ありまくりだがな。

神託:……新しい概念だと? 五大元素が世界を構成するすべてだというのに、何故そのような愚かな発想を……。

アウラム:うるせぇな、老害が。俺たちは、あんたと違って未来へ流れてんだよ。過去にこびりついた亡霊が、口出しする権利はねぇ。

神託:……然り。完璧と思っていた我が術式を、汝らは見事破壊した。それが……すべてか。

イア:……『神託』(ディヴァイン・オラクル)。聞いておきたいんだが……擬似生命体を錬成する秘術は、アナタから得る以外、他に手段は無いのか?

神託:正確には分からぬが……少なくとも、我が生きていた頃は、我が独占していた技術だ。そして、我がそれを授けることも、もう出来ぬだろう。

イア:そうか……。

アウラム:……すまねぇな。こんな結果になって。

イア:いや、構わないさ。元よりカルト教団へ渡さない為に求めていたんだ。入手方法が無くなるなら、より安全だ。

アウラム:なるほど……じゃあ、依頼成功、ってことか。

イア:ふっ……そうなるかな。

神託:もうそろそろ、我の意識を維持するのも限界だな。このような形で、我が世界から失われるのは不本意だが……正しい答えだったのかもしれぬ。

アウラム:……あぁ、そうだよ。未来のことは俺らに任せて、天界がどうなってるのか見物して来い。

神託:……そうだ、な。時に、逆らわず……消えると、しよう……。さらばだ、錬金術師、よ……。

アウラム:おっと! いきなりぶっ倒れんなよ、危ねぇなぁ……。

イア:……す、すまん。

マスター:いっでぇ⁉︎ ぐぁっ、鼻が! うぉーい! 俺もぶっ倒れたんですけどぉ⁉︎

アウラム:……悪いが、俺の腕は2本しかねぇんだよ。

マスター:じゃあ、1本貸せよ!

イア:マスター、大丈夫そうだな……良かった。

マスター:いや、鼻血でてますって! 地面に激突しましたって!

アウラム:うるせぇ奴だな……それくらいで済んで良かっただろうが。

マスター:そうだけどよぉ……いてぇよぉ……ちくしょー!

アウラム:はははっ……さて……帰るか。



≪帰還! それぞれの道へ!≫


マスター:着いたぞ……本当にこんなとこで良いのか? 周り何もねぇけど。

イア:あぁ、近くの町に用事があってな。

アウラム:その町まで乗ってけばいいじゃねぇか。

イア:いや、無駄に遠回りさせてしまうからな。ここで充分だ。

アウラム:気ぃ使い過ぎじゃねぇか?

マスター:そういう奴だろぉ、イアは……短い間だったけど、なんとなく分かった。

イア:すまないな。

マスター:いや、謝ることじゃねぇけど……。

イア:……アウラム、マスター。改めて、世話になった。ありがとう。

アウラム:結局、秘術も手に入らず、骨折り損のくたびれ儲けだったけどな。

マスター:そんなレベルじゃなかったけどなぁ、俺……ほぼ死にかけたぞ。

イア:ふふっ……感謝の気持ちとして……少ないが、これを。

アウラム:あ? 良いって、そういうの……お、結構あるな。

マスター:じゃあ、受け取んなよ……。

イア:2人で分けるんだぞ?

アウラム:ん? お、そうだ、道中気をつけて行けよー。危ないからなー。

マスター:てめぇ! うやむやにするんじゃねぇ!

アウラム:わーったよ、うるせぇな……ははっ。

イア:……それじゃあ、そろそろ行ってくれ。見送りたいんだ。

アウラム:そうか……また近くに寄ったら、酒でも飲みに来いよ。こいつに奢らせっから。

マスター:おーい! そこは嘘でも自分が奢るって言っとけよ! ったく!

イア:ははっ、楽しみにしておくよ。

マスター:むう……まぁ、美味い酒を用意しておくからよ……また会おうぜっ。

イア:あぁ……ありがとう。

アウラム:……そんじゃ、行こうぜ。ここに居たら、いつまでも次の再会が来やしねぇからな。

マスター:なんだよそれ、お洒落な言い回ししやがって……。

アウラム:いいから、出せ。

マスター:わぁったよ……そんじゃ、またな!

イア:あぁ、元気でなっ!

アウラム:…………はぁ、短いようで、長い時間だったな。

マスター:そーだなぁ。でもまぁ……楽しかったな。

アウラム:ははっ、よく言うぜ。ずっとビビってたくせに。

マスター:おーい、それは言わない約束だろがぁ!

アウラム:はははっ、悪りぃ悪りぃ。



≪そして、誰もいなくなった≫


イア:……検知領域からの離脱を確認。

イア:……通信テスト。フォー。セブン。ナイン。イー。フォー。……通信状態確認、完了。

イア:……先刻(せんこく)送信した通り、擬似生命体の錬成について、情報の取得経路を特定した。義体の搬送は済んでいるか?

イア:……了解。では、この義体は『万物溶解液』(ばんぶつようかいえき)にて処理を行い、遺跡に搬送済みの義体へリモートし直す。

イア:……通信切断から5秒後に処理、およびリモートの解除を実行する。承認を確認した……通信切断。



≪*【Irr】読み:イア 意味:誤った、外れた≫


神託:……これは、どういうことだ……術式が……復元している?

???:やぁ、『偉大なる錬金術師』(マグヌス・アルケミスタ)。この姿では、はじめまして。

神託:汝……我の、この器は?

???:お気に召したかな? 錬金術師の器として申し分ない信者を選定したつもりだが。

神託:なるほど……我を下ろす器に、情が無ければ良かった……ということか。

???:それは違うな。別にアレでも良かったんだが……やはり、安物よりも高価な器の方が良いだろう?

神託:……然り。

???:そういうことだよ。ギシシシ(※笑い声)。

神託:それで、我を再度呼び起こし、何をさせるつもりだ?

???:決まっているだろう? 貴様の技術、すべてを使い……新たな神となる、『人間』を創造してもらう。

神託:ほう……面白い。汝らに討たれる間際に、現代の新しい概念を学習したいと、願ったかいがありそうだ。

???:歓迎するよ、『神託』(ディヴァイン・オラクル)……しかし長い名前だな。よし、せっかく新たな生を享受(きょうじゅ)するんだ。呼びやすい名を考えよう。

神託:それならば、『フラメル』と。生前、そう呼ばれていたのでな。

???:なるほど。良いじゃないか。では、フラメル。私も、自己紹介させてもらおう。

神託:あぁ……。

???:私は……隠密作戦担当AI。管理番号『e4』、個体識別名称『ガミジン』と言う……今後とも、よろしく。



END――

まばたり

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