『夢』 作:清水流兎
【CHARACTER】
・あなた(台詞なし)
・ガンコナー
・エサソン
・ケット・シー
・グレムリン
・レプラコーン
*エサソンは二役出てきますが、出番はかぶりません。
*ケット・シー、グレムリン、レプラコーンを兼役にするくらいがバランス良いかも? 出番は少しかぶります。
*レプラコーンがちょい役です。
【STORY】
『不明瞭』
レプラコーン:
「なんだ、お前もこっちに来ていたのか」
ガンコナー:
「この季節は仕方がないさ。それよりレプラコーン、金貨を出してくれ」
レプラコーン:
「いいよ。ほら」
ガンコナー:
「うおっ、こんなにいらないよ。一枚でいい」
レプラコーン:
「何に使うんだ?」
ガンコナー:
「願掛けさ。ちゃんと帰れるようにね」
レプラコーン:
「ケット・シーが怒っていたよ。新年の準備で忙しいのに、気が付いたら誰もいないってさ」
ガンコナー:
「僕だって来たくてここに来たわけじゃないよ。それに、あいつが怒ってるのはお前が金貨を消したからだよ。あいつが真面目に準備なんてやるわけない」
レプラコーン:
「なんでそんなことで怒るんだ? 一時でも欲しいものが得られたんだから幸せだろう?」
ガンコナー:
「違いない。とにかく早く帰ろう。ここは五月蠅いし、ゴミゴミしていて、落ち着かない。タバコと女の子が多いのが救いかな」
レプラコーン:
「その子も?」
ガンコナー:
「ああ、もう欲しいものはもらったんだ。そうだ、余ったのは君にあげよう。記念だよ。もし焦がれるなら、それを頼りに追っておいで」
〇
エサソン:
「やあ、こんばんは」
あなた:
「――」
エサソン:
「うん、良い返事だ。おや、今日は変わった格好をしているね。見てごらん。足が2本に、手が2本。手には器用な指が5本。顔は……、まだ寝ぼけているかな? うん、君がそういう格好をしているなら、僕もそのように話そう。君は今夢を見ている。君の探し物を見つけるために、僕がここに呼んだんだ。本当はもっと別の形でお手伝いしたかったんだけどねー」
ケット・シー:
「にゃー! 見つけたにゃ! こんなところで何してるニャ!」
エサソン:
「おっと、ちょうど良いところに。ケット・シー、お客人だよ」
ケット・シー:
「客人にゃ? バカ言ってるんじゃないにゃ。今は猫の手も借りたいほど忙しいにゃ。一匹だけサボるなんて許されないにゃ。早く来るにゃ」
エサソン:
「待って待って、ケット・シー。彼女は君の手下の子じゃないんだよ。彼女は外から来たんだ」
ケット・シー:
「にゃー? ……たしかに、変な格好してるにゃー。何の真似にゃ?」
エサソン:
「探しものを手伝ってあげてくれない? 君は得意でしょ? 同族のよしみでさ」
ケット・シー:
「にゃー……そういう気分じゃないにゃー……。そういうのはレプラコーンの奴に頼むにゃ。あいつならキラキラしたの出してくれるにゃ」
エサソン:
「そのレプラコーンはどこにいるのさ」
ケット・シー:
「知らないにゃ。どうせまた人間をからかいに行ってるにゃ」
エサソン:
「あー、あいつも相変わらずだねー。そういえば、ガンコナーの奴がまた――」
あなた:
「――」
エサソン:
「おや、ガンコナーが気になるのかい?」
あなた:
「――」
エサソン:
「ふーん、そこまではわからないか。じゃあ会いに行ってみよう。ガンコナーはたしか、さっき泉で見たかな」
ケット・シー:
「泉にゃ!? それを早く言うにゃ!? 行くにゃ! 急ぐにゃ!」
エサソン:
「新年の準備はいいの?」
ケット・シー:
「そういう気分じゃないにゃ! ほら、そこのお前も行くにゃ! 今ならおこぼれをもらえるかもしれないにゃ!」
あなた:
「――」
エサソン:
「ま、いっか。でも、気をつけなければいけないよ。もし、君に取り戻したいものがあるのなら、それまではきっと思い出してはいけないよ」
あなた:
「――」
エサソン:
「いや、なんでもないよ。さあ、行こうか」
◯
ケット・シー:
「なんにゃ? もう誰かいるにゃ」
エサソン:
「あれは……、グレムリンだね。ガンコナーもいる」
あなた:
「――」
エサソン:
「あ、こら!」
あなた:
「――」
エサソン:
「あーあ、言わんこっちゃない。慣れない体で急に走るから」
ケット・シー:
「鈍臭い奴にゃ。あいつあれでも猫かにゃ?」
エサソン:
「おーい、大丈夫ー? ほら、立てる?」
ガンコナー:
「何かと思えば、エシルと、ケット・シーと……誰?」
グレムリン:
「おい、無視するなよ!」
エサソン:
「やあ、ガンコナー。キラキラしてるね」
ガンコナー:
「ああ、可愛いだろう? この間、向こうで女の子たちにもらったんだ。手を伸ばしても触れないぞー。ほら、こっちおいで」
ケット・シー:
「レプラコーンはどこにゃ?」
ガンコナー:
「さあね。まだ向こうで人間をからかってるんじゃない?」
エサソン:
「何してるの?」
ガンコナー:
「釣りさ。この時期は面白いものが紛れ込むからね」
グレムリン:
「なあなあ、もっと釣ってよ」
ガンコナー:
「だから釣ったじゃん。でも、お前これ……」
エサソン:
「それ何?」
ケット・シー:
「マタタビあるかにゃ」
ガンコナー:
「電子タバコって言ってさ。これを使えば臭わなくなるらしい」
ケット・シー:
「そう言えば、いつもよりは臭わないにゃ。でも変な臭いするにゃ」
ガンコナー:
「これでマタタビでも燻したら美味いんじゃない?」
ケット・シー:
「貸せにゃ!」
ガンコナー:
「おっと。まあ、もう壊れてるんだけどね」
グレムリン:
「わざとじゃないよ! また釣ればいいじゃん!」
ガンコナー:
「釣ってもお前がいたら釣ったそばから壊れるんだよなぁ。早くどっか行けよ」
グレムリン:
「やだ!」
ケット・シー:
「どうやって使うにゃ!」
ガンコナー:
「ボタン押せー」
エサソン:
「何釣ったの?」
ガンコナー:
「あっちに釣ったの入れてあるよ」
エサソン:
「キノコあるかなー」
ケット・シー:
「さかにゃさかにゃさかにゃー」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「ん? 君は行かなくていいの?」
グレムリン:
「ねえねえ、このキラキラしたの何?」
ガンコナー:
「興味ある? 1人いるかい?」
グレムリン:
「欲しい!」
ガンコナー:
「でも、ダーメ。というか無理」
グレムリン:
「なんでよ!」
ガンコナー:
「この子たちは僕から離れないから。死ぬまで僕だけを愛してくれるかわいい子たちさ。そういう風になってるんだよ」
グレムリン:
「むぅ、なんだよそれー。期待させておいて」
あなた:
「——」
グレムリン:
「あ、引いてるよ」
ガンコナー:
「お、いいね。ほらグレムリン、あっち行ってろ」
ガンコナーがグレムリンの足を掴み、茂みの向こうに投げる。
グレムリン:
「あああああぁぁぁぁぁぁ————」
ガンコナー:
「そぉれ、っと!」
エサソン:
「やあ」
ガンコナー:
「エシル……」
エサソン:
「なあに?」
ガンコナー:
「あー、おかえり」
エサソン:
「ただいまー」
ガンコナー:
「何やってんの?」
エサソン:
「うーん、お世話かなぁ。女の子のお仕事を手伝ってあげようとしたんだけど、その子ご飯も食べなくなって、動かなくなっちゃったの。だから、そのお世話」
ガンコナー:
「お前らまだ向こうにいるの?」
エサソン:
「エサソンはまだ向こうにいるんだよー。レプラコーンも見たよー」
あなた:
「——」
エサソン:
「あれ、君もこっちにいるの? んー、まーいっかー。早くお家に帰んなよー。帰れるうちにねー」
ガンコナー:
「ん? お前、この子を知っているのか?」
エサソン:
「知ってるよー。エサソンがお世話している子だもの。ねえねえ、戻してくれる?」
ガンコナー:
「それは無理じゃないかな。今泉に投げ込んでも、同じ場所に戻れるかどうかはわからないからね」
エサソン:
「そっかー。じゃあ、いいや。キノコある?」
ガンコナー:
「ほら」
エサソン:
「はにゃーん! ありがとー! 大好きー!」
グレムリン:
「あ、エシルだ。あっちにもエシル、こっちにもエシル」
ガンコナー:
「ほら、あっちに釣果があるから、あさっておいでよ」
エサソン:
「わーい! そうするー!」
ガンコナー:
「なるほど、君は追ってきたのか。見たことがあると思ったよ」
あなた:
「——」
グレムリン:
「なに? どういう意味? この女の子と知り合いなの?」
ガンコナー:
「正確には違うかな。言っても無駄なことだよ」
グレムリン:
「なんだよ。教えろよ」
ガンコナー:
「グレムリンもあっち行ってなよ」
グレムリン:
「やだ。構え」
ガンコナー:
「やれやれ。……よっ、と」
ガンコナーが泉に釣り糸を垂らしながらタバコを吸いだす。
グレムリン:
「タバコやめろよ。臭い」
ガンコナー:
「僕の勝手だろ。臭いならあっち行けって」
グレムリン:
「なんでそんなに邪険にするんだよ」
ガンコナー:
「向こうから面白そうな機械が釣れても、お前がいたら台無しになるからだよ。さっき壊れたし、電子タバコ」
グレムリン:
「……悪かったって。じゃあ、獲物が掛かるまではいいだろ? 引いたら離れるからさ」
ガンコナー:
「イタズラとかはしないでよ」
グレムリンが小声であなたに話しかける。
グレムリン:
「なあなあ、君……そう、君だよ。君もあのキラキラしたのに興味があるんだろ? 一個奪って、ガンコナーの奴を困らせてやろうよ」
あなた:
「——」
グレムリン:
「なあに、大丈夫だって。僕があいつの気を引くから、その間にこの瓶の中に閉じ込めるんだ」
ガンコナー:
「グレムリン、聞こえてるよ」
ガンコナーがグレムリンを捕まえて投げる。
グレムリン:
「げぇ、あ、ちょっと! ちょっと待って! 謝るから! あああああぁぁぁぁぁぁ————」
ガンコナー:
「君、ほら、これをあげるよ。名付けて、瓶詰の恋心」
あなた:
「——」
あなたが瓶に手を伸ばすが、ガンコナーが取られないように遠ざける。
ガンコナー:
「おっと」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「ははっ、そんな顔するなって。ちゃんとあげるよ。ただその前に、いくつか僕の問いに答えてほしい」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「僕はガンコナー。妖精だ。向こうでは、言い寄り魔と呼ばれているそうだよ。僕は人間の女の子を見ると、声を掛けずにはいられない。そして、女の子たちから心をもらうが、彼女たちと一緒になることはない。僕に生殖本能などというものはないからね。彼女たちは、一生僕に恋焦がれながら死んでいく。彼女たちは幸せだったと思うかい?」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「なるほど、僕ら妖精には理解できない考えだ。では、君たちにとって幸せとはなんだ?」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「ふーん、抽象的だね。君らはいつもそんなことを考えて生きているのか。可哀そうな生き物だね。では、妖精とは君たちにとってなんだ? 妖精に言葉が通じると思うのは何故だ?」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「意地悪だったかな? ほら、これはあげるよ。最後の問いだ。君はいったい何者で、このに何をしに来たのでしょうか」
あなた:
「——」
ガンコナー:
「答えは、泉を覗いて、自分で確かめてみるといい」
あなた:
「——」
グレムリン:
「おーい……ガンコナー……、あっちで、こんなものを拾ったよ」
ガンコナー:
「なんだこれ。輪っか? なんで拾って来たの? 着けてあげようか?」
グレムリン:
「いらないよ。さっきの女の子が落としたのかと思ってさ。で、あの子は?」
ガンコナー:
「帰ったよ。たぶんね」
グレムリン:
「なーんだ。つまんないの」
ガンコナー:
「どうせまたすぐに会えるよ。あの子とも、あの子のご主人様ともね。そういう風になっているから」
グレムリン:
「あ、引いてるよ」
ガンコナー:
「おっと、今度は良いものが掛かってくれよ!」
ガンコナーがグレムリンを掴んで投げる。
グレムリン:
「わっ! 放せよガンコナー! 離れる! 自分で離れるから! あああああぁぁぁぁぁぁ————」
ガンコナー:
「それっ!」
レプラコーン:
「よお」
ガンコナー:
「なんだ、レプラコーンか……」
レプラコーン:
「なんだとはなんだ。勝手にいなくなりやがって。とにかく、針外してくれない?」
ガンコナー:
「妖精って餌になるのかな」
レプラコーン:
「ん? 待て! なんでまた沈めようとするんだ! せめて針を外せ! 無事帰れたのは誰のおかげだと————」
ガンコナーが釣り上げたレプラコーンを再度泉に沈める。
ガンコナー:
「はぁ、釣れないなぁ……」
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