『家守』 作:ケンタ
『家守』
作:ケンタ
家を守ると書いてヤモリと読みます
ニホンヤモリは一般に家屋の周辺等でみられるトカゲの仲間ですが、特殊な足の構造で壁面にはりつきするすると登っていきます
これはヤモリにまつわる怪異にあった女性のお話
その女性、仮にAさんと呼びます
片田舎に住むAさんですが職場は比較的近場なので20分ほどの距離を徒歩で通勤しています
Aさんが使う道の途中にとても大きなお屋敷がありました
霊感等は特にもたないAさんでしたが、そのお屋敷の前だけはなんともいえない嫌な空気が漂っている気がしていつもそのお屋敷の前を通る時は早足で通り過ぎるようにしていました
家への帰り道で手頃な迂回路もないので、嫌だなぁと思いながらも今日も早足で通り過ぎようと足を速めました
そこでふと違和感を感じる
そこまで人通りの少ない道ではないはずなのですが自分意外に人がいない
足音もせずシィンと耳鳴りのするような静寂
振り向いても誰もいない
たまたま、、そんな事もあるだろうと怖い気持ちを誤魔化しながらお屋敷の壁沿いを早足で歩いていきます
コツコツ……ペタ
コツコツ……カサカサ…ペタ
音がついてくる
自分の足音に合わせて
衣擦れの音と、裸足で歩くような音
Aさんは背中に冷たい嫌な汗が流れるのを感じました
おそるおそる振り向く
が、誰もいない
電信柱の影にも人がいる気配はない
泣きそうになりながらも壁沿いに右に曲がりまた歩き出しました
コツ、、コツ、、(こわいこわいこわいこわい)コッコッコッコッコッ
、、、、
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ
これはもう気のせいなんかじゃない
なにかが明らかに自分の後ろを追ってきている
Aさんはもう涙をこらえられず泣きながら走ります
カッカッカッカッカッカッカッ
ガサッペタペタガサガサペタペタペタペタ
音がもうすぐ後ろに迫ってきている追いつかれる!
バッ!!!
Aさんの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていました
振り返った先にはやはり誰もいない
ハァッハァッハァッハァッ
走ったのと恐怖とで荒い息をはきながらジッと後ろをみる
あきらかに音はすぐ後ろまできていた
あの音は一体なんだったのか
ふと、、視界の隅に違和感を感じる
目線よりもう少し上、、壁の方に視線をやる
禿(かむろ)のようなおかっぱの髪型の幼子が壁にぺたりと貼り付いていた
人ならざる昏(くら)い昏い目でじぃっとこちらを見つめていた
Aさんはそこで意識を失い、気付いたら自室のベッドの上でした
あれは夢だったのかとも思いましたが
夢だとはおもえないほどリアルな自分の息遣い、空気感が生々しく鮮明に記憶に残っていました
後日母親にきいた話ですが、あれだけ大きなお屋敷なので泥棒に入られた事もあるそうですが
忍びこんだ泥棒が翌朝錯乱状態でみつかる等、尽く盗難に失敗しているそうです
家主は家には守り神がいると笑っていたそうですが、あの時みた昏い瞳は本当に守り神だったのか
もっと禍々しい呪いのようなものなんじゃないだろうかと思わずにはいられませんでした
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